2000-01-01から1ヶ月間の記事一覧

付録 「生きる喜び−人間と生命の基礎と臨床」

「生きる喜び−人間と生命の基礎と臨床」(1986年) (毎日二十一世紀賞応募論文) 生命は生物の現象であるが、必ずしも生物学的にのみとらえられるとはいえない。生命をあるいは人間を生物学的に見てゆく場合、何が明らかにされ、何が残されることになる…

凡例および後書

凡例および後書 吉田氏の著作からの引用は、こちらの手許にあるのが原書房版の「全集」、集英社版の「著作集」および各種単行本と様々であるため、手持ちのものを適宜用いた。 その際、歴史的かなづかいは現代かなづかいにあらためた。また漢字も正字を略字…

第10章.医療という仕事

第10章.医療という仕事 吉田健一氏は不思議な人で、その書いていることだけで見ると前後が矛盾しているようなことをしばしば書いている。勿論、矛盾と見えるのは字面だけの表面的なことであり、深い文意の流れからいえば少しも矛盾はしていないということ…

第9章.死の周辺

第9章.死の周辺 玉の緒よ絶えなば絶えねといひながら 今はといへばまずお断り 言うまでもなく、式子内親王、 玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする をふまえた狂歌。昔、吉田氏の薦めで読んだ矢田挿雲氏の「江戸から東京へ」で見つ…

第8章.宗教論その他

第8章.宗教論その他 桂子さんはある種先天的に弱い人間やそのために現に病気になっている人間にとってキリスト教が一定の効用をもっていることは認めている。医者と薬は病人のために必要である。そしてそれがなくては病人が困る。ただし一般の健康な人間に…

第7章.こころというもの

第7章.こころというもの フィリップ・K・ディックのSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」は「最終世界戦争」後の荒廃した地球を舞台としている。既に放射能のため多くの生物は死に絶えてしまっている。人間もまた多くが死に、多くが地球外の惑…

第6章.グレゴリー・ベイトソン (アンチ吉田健一・その二)

第6章.グレゴリー・ベイトソン (アンチ吉田健一・その二) 養老孟司氏は人間が科学を志向する動機についてこう述べる。 なぜわれわれは、意味を発見しようとするのか。それは、おそらく、知りたいからである。あるいは理解したいからである。「わかった」…

第5章.カール・ポッパー (アンチ吉田健一・その一)

第5章.カール・ポッパー (アンチ吉田健一・その一) ここで医学と吉田健一氏からしばらく離れて(とは言っても、今までもそれ程くっついていた訳でもなかったかもしれないが)、現代イギリスの哲学者カール・ポッパーについて論じてみたいと思う。ポッパ…

第4章.生きているということ

第4章. 生きているということ 中村稔氏の詩「ふたたび訪れる春に」、 ほそい梢を透明な空にさしのべていた 樹木はじきに芽ぶかねばならぬ。 わさわさと鳴る葉をまとい その繁みにじぶんを匿さねばならぬ。 じめじめと湿った大地の底で やがて錆びついてゆ…

第3章.西と東・文科と理科

第3章.西と東・文科と理科 医学について論じるといいながら、医学と関係があるといえないこともないような話題に終始してきた。もう少し医学自体について論じることとしたい。とは言っても、すぐまた脱線してしまうかも知れないが。 さて、これから医学と…

第2章.人間らしさということ

第2章.人間らしさということ 科学がヨーロッパ近代の活動の一つの典型であること、その近代は第二次世界大戦で終りを告げ、以後の現代では近代の拡散と混乱に変って、総ての活動を律する中心として再び人間が現れたとする吉田氏の見方を前章で述べた。吉田…

第1章.文明開化

第1章.文明開化 「吉田健一は文明開化だ」というのは、河上徹太郎氏の吉田健一評なのだそうである。(「ユリイカ」77年12月号「特集=吉田健一」の座談会での清水徹氏の発言による。) どのような文脈のなかで河上氏がそのように言ったのかは述べられてい…

生きる喜び(序にかえて)

生きる喜び(序にかえて) 平和とは何か。それは自分の村から隣の村に行く道の脇に大木が生えていて、それを通りすがりに眺めるのを邪魔するものがないことである。或は、去年に比べて今年の柿の方が出来がいいのが話題になることである。 右の文章は吉田健…

[吉田健一の医学論}目次

目次 生きる喜び(序にかえて) 第1章.文明開化 第2章.人間らしさということ 第3章.西と東・文科と理科 第4章.生きているということ 第5章.カール・ポッパー (アンチ吉田健一・その一) 第6章.グレゴリー・ベイトソン (アンチ吉田健一・その二…

「吉田健一の医学論」についての若干の前書き

1)「吉田健一の医学論」(1987年)。 40歳の頃のもの。自分でワープロで書き、印刷し、コピーして、数冊製本し、ごく親しい友人何人かに配ったもの(栃折久美子さんの本を参照したが、素人の悲しさで、できそこないの本を数冊作ったらもういやになって…