医療関係

計見一雄「戦争する脳」(6)

終章「日常と戦争」 ここでは現代の戦争は、日常と戦争との境目が消失してきているということがいわれている。宣戦布告してはじまる戦争といった古典的な戦争はもはや過去のものとなり、テロのようなある日突然巻き込まれるといったものとなってきている、と…

計見一雄「戦争する脳」(5)

第4章「戦陣戦争医学」 第二次世界大戦中にパットン将軍による「殴打事件」というのがあった。パットン将軍が野戦病院を見舞った時、外傷のみとめられない兵士に「どこが悪いのか?」と聞いたところ、「どうも精神のせいらしいです」と兵士が答えたのに激怒…

計見一雄「戦争する脳」(4)

第3章「兵士の肉体性」 今時大戦の日本軍の場合、「兵士が肉体を持つ」という事実が否認されていた。日清・日露のころからそうだったはずはない。そうであればあの戦争ができたはずはない。昭和になり、戦争が激化し、厳しくなってくるとそうなってきた。肉…

計見一雄「戦争する脳」(3)

第2章「ラムズフェフド氏の見事な戦争」 この本は2007年末の刊行なので、論じられるのは2003年のイラク戦争で、「見事な」というのはバグダッドの陥落まで。「あっという間に敵の組織的戦闘能力を破壊」し「味方の兵の損耗はわずか(百数十人、敵は…

計見一雄「戦争する脳」(2)

第1章「否認という精神病理現象」 著者の計見氏は精神科救急という火事場のような第一線で仕事をしているひとだが、意外なことに最初は精神分析のほうから精神科医療をはじめたかたらしい。それで本章にはかなり精神分析的な見方を感じる部分がある。 計見…

計見一雄「戦争する脳」(1)

平凡社新書 2007年 「戦争する脳」といっても人間が好戦的であるという話ではない(そういうことが否定されているわけでもないが)。 著者が生まれたのは1934年昭和14年で、生まれる2ヶ月前にナチスドイツがポーランドに侵攻している。終戦が6歳…

日本禁煙学会

この前、岩田健太郎氏の「「本当に」医者の殺されないための47の心得」から「ほんとうにこわいニコチン中毒」というのをおもしろかったので紹介した。必要なことはそこにつきているので、わたくしがつけくわえることは何もないのだが、最近、日本禁煙学会…

バルサルタン(ディオバン)問題・続き

2回、この問題についてみてきたが、もう一回。 自分の研究に対し、資金を提供してくれる人がいるとします。その研究において、スポンサーが期待する結果と異なる、どちらかと言えばスポンサーが望まない結果が出たものとしましょう。そんな時、自分の研究結…

谷岡一郎「データはウソをつく」(+バルサルタン(ディオバン)事件)

ちくまプリマー新書 2007年 先日、西内啓氏の「統計学が最強の学問である」をみていて、この本を思い出し、本棚から引っ張り出してきた。ちらちら見ていたら面白く、以前には斜め読みしただけであった本書を通読してしまった。これはちくまプリマ−新書と…

中井久夫「笑いの生物学を試みる」in「「昭和」を送る」

人間は自分が優れているのだぞと言いたくて、いろいろなものをこれは人間にしかないと言い張ってきた。笑いもその一つである。それもまた人間の傲慢の一つであるのかもしれないが、笑いはヒトのおごりをも笑える。笑いはパンドラの箱に最後に残った希望の変…

J・グループマン&P・ハーツバンド「決められない患者たち」(3)

整形外科的治療 症例1)42歳女性。足の痛み。第1中足関節の骨棘、ガングリオン、関節炎。 整形外科医は手術をすすめる。彼女は若い時からSLEに苦しんできて、イムランとステロイドの副作用にも苦しめられてきた。数年で寛解にはいり、今は服薬は必要…

J・グループマン&P・ハーツバンド「決められない患者たち」(2)

甲状腺機能亢進症の治療: ある患者は上記の診断を受け、放射性ヨードでの治療を勧められた。一回薬を飲めば治療は終わりで、あとは補充のホルモン剤をのむだけ。他にも抗甲状腺剤、外科治療があるがこれが一番いい、と。彼は19歳で糖尿病を発症し、いまだ…

J・グループマン&P・ハーツバンド「決められない患者たち」(1)

医学書院 2013年3月 わかりにくい題名だが、原題は「Your Medical Mind : How to decide what is right to you 」で、自分にとって最良の治療は何かであり、それを決めることがいかに難しいかを論じている。「患者の治療選択」というような題名の方が本…

「AERA」12年9月24日号「コレステロール引き下げるな」

8年ほど前に、柴田博氏の「中高年の健康常識を疑う」を読んで以来、コレステロールの問題に野次馬的な興味を持っている。それでこの雑誌も買ってきた。3ページくらいの記事で、書いているのは長谷川熙というライターの方。 日本では「日本動脈硬化学会」と…

B・ゴールドエイカー「デタラメ健康科学」(5)

第10章「メディアが科学をおとしめる」は大した話題がないし、第11章「なぜ賢い人がばかなことを信じるのか」は統計の初歩のような話なのでパスして、 第12章「誤った数字が用いられることの恐ろしさ」 マスコミは大げさな数字を好むので「相対リスク…

B・ゴールドエイカー「デタラメ健康科学」(4)

第9章「製薬業界のだましの手口」 最初のほうに 政治的な信条がどうであれ、こと医療に関しては誰もが基本的に社会主義者だ。 とある。この文は「医療関係の仕事に利益がかかわっていると考えると心穏やかでいられない」と続く。わたくしが一度も開業という…

B・ゴールドエイカー「デタラメ健康科学」(3)

第8章「ビタミンでエイズは治らない」 まことに恥ずかしい話だが、ここに書かれていることをわたくしはまったく知らなかった。南アフリカ共和国におけるエイズの話である。 南アフリカでは毎年30万人がエイズで死んでいる。HIV陽性者は630万人。そ…

B・ゴールドエイカー「デタラメ健康科学」(2)

第6章「栄養評論家の作り話」 わたくしはあまりテレビをみない方なので、日本の栄養評論家といって頭に浮かぶ顔はないが、イギリスでは有名な栄養評論家というのがいるらしい。著者はかれらの論法がいかにおかしいかを詳細に示す。 フルーツジュースが寿命…

B・ゴールドエイカー「デタラメ健康科学」(1)

河出書房新社 2011年5月 著者はイギリスの精神科医であり、医療ジャーナリスト。本書を読んでの第一の感想は、イギリスも日本も同じなんだなというものである。日本のマスコミは他国にくらべて程度が低いのではないかと思っていたのだが、イギリスでも…

常石敬一「結核と日本人」

著者は科学思想の専門家。結核についての日本の医療史からみた日本の医療の特殊性を論じている。 ヒポクラテスの頃から結核についての記載はある。しかし、それが爆発的な流行をおこすようになったのは、イギリスで18世紀後半から産業革命がはじまり、都市…

猪飼周平「病院の世紀の理論」(6) 第7章「治療のための病床」

本章では社会的入院の問題がとりあげられる。社会的入院という言葉は一般にはあまりなじみのないものであるかもしれない。そもそも本章のタイトル「治療のための病床」というのも奇妙な印象であるかもしれない。「治療のためでない病床」とはなんのための病…

猪飼周平「病院の世紀の理論」(5) 第6章「病院の世紀の終焉」

1982年の老人保健法制定を嚆矢とする医療改革の流れは年々ふくらんでゆく医療費の抑制というという視点からもっぱら論じられてきた。しかし、そこで見落とされていたことがある。それはそれ以前に厚生労働省が誘導しようとして挫折してきた様々な施策が…

猪飼周平「病院の世紀の理論」(4) 第4章「医療の社会化」運動の時代 第5章 開業医の経済的基盤と公共性

20世紀にはいってようやく医療にも少しできることが増えてきて、そのことにより、民衆のあいだに医療への期待感と医療への欠乏感が生まれてきた。当時の医療は決して安価なものではなく、利用もしづらかった。そのため医療をどうやって広く社会に還元して…

猪飼周平「病院の世紀の理論」(3) 第3章「専門化する日本の医療」 第8章「医局制度の形成とその変容」

この猪飼氏の本は今年3月にはじめに論じていたのだが、東日本大震災に遭遇して中断してしまっていた。改めて再開したい。かなり専門的な内容で医療者以外にはあまり興味がわかない話題であるかと思うが、もしも関心を持たれたかたがあれば、申し訳ないが、…

会田薫子「延命治療と臨床現場」

東京大学出版会 2011年7月 本書はさまざまな医学系の雑誌に発表された論文に加筆してまとめたものということで、基本的は医療関係者を読者に想定している本と思われるが、ごく平易に書かれているので医療に関係しないかたが読んでも十分に理解できるの…

ASAHI Medical 2011・11「脂質異常症」

「ASAHI Medical」という医療者向けの雑誌の最新号に「脂質異常症」の特集がある。脂質異常症というのは以前なら高脂肪血症と呼ばれていたものであるが、脂質は高い方ばかりでなく低い方も問題なことがあるということで、最近このような言い方を…

J・グループマン「医者は現場でどう考えるか」(5)

第10章は、最近の医療で頻用される判定システムにつき論じている。判定システムというのは、患者さんの診断名、状態あるいはデータなどがわかると、そこからどのような治療法を選択すぼきかを自動的かつ機械的に導出するシステムである。このシステムに従…

J・グループマン「医者は現場でどう考えるか」(5)

第10章は、最近の医療で頻用される判定システムにつき論じている。判定システムというのは、患者さんの診断名、状態あるいはデータなどがわかると、そこからどのような治療法を選択すぼきかを自動的かつ機械的に導出するシステムである。このシステムに従…

J・グループマン「医者は現場でどう考えるか」(4)

第9章は医療の場における製薬資本の影響について論じている。 ある内分泌専門医に製薬会社の宣伝担当がつきまとうところからはじまる。こういう職種は現在日本ではMR(Medical Representative )と呼ばれている。薬の情報を医師に伝える製薬会社の職員で…

J・グループマン「医者は現場でどう考えるか」(3)

第5章は「家族の愛が専門家を覆す」という題(原著では、A New Mpther'challenge という題)で日本語訳はやや感傷的な感じがある。ベトナムから里子としてアメリカに連れてきた子どもがすぐに重篤な免疫不全状態となり、SCID(重症複合免疫不全症)の診…