地震のあとで

(30)2011・5・29 「空気」

以下に書くことは、もっぱら本日の「朝日新聞」朝刊の記事によっている。例の海水注入問題である。 記事の時系列表によると、 3月12日18時5分に東電本社が国から海水注入の指示を受ける。 とある。この文は受け身であって、この国というのが何であるか…

(29)2011・5・22 「一番病」

「鶴見俊輔に戦後世代が聞く」と副題された「戦争が遺したもの」(上野千鶴子と小熊英二が聞き手)で鶴見氏が「一番病」ということをいっている。 氏によれば、日本の知識人というのは同時代のイギリスあるいはアメリカ、ロシア、ドイツなどの知識人が持たな…

(28)2011・5・21 わからないこと

最近の報道をみていて、わからないことが多い。 原発は津波の前に、地震だけで構造の一部が破壊され、放射性物質の漏洩などは津波がなかったとしても、ある程度はおきていたのだろうか? それとも地震で構造の一部が破壊されたとしても、それだけでは漏洩に…

(27)2011・5・15「荒地」

エリオットの「荒地」を思い出したのは、中井久夫氏の「分裂症と人類」を読みかえした時に、ゲーテの「ファウスト」やヴォルテールの「カンディード」、さらには、T・S・エリオットの「荒地」に共通するものとして、それぞれが個々の持ち場でそれぞれのこ…

(26)2011・5・12「東北の医療」

出身大学の関連病院長会議の幹事会というのがあり、その末席に名を連ねているので出席してきた。年に一回おこなっている関連病院の関係者の意見交換と親睦の会の準備会で、その会ではいつも何かの講演をおこなっているので、今年はどんな話にしたらいいのか…

(25)2011・5・11「手本は二宮金次郎?」

今日で2ヶ月である。 8日の朝日新聞の震災にかんする記事に、震災からの復興には「立て直し」と「世直し」の二つの方向があり、そのことを論じた本の一つとして中井久夫氏の「分裂症と人類」が挙げられていた。それで、読み返してみた。 この本は1982…

(24)2011・5・9

カレンダー通りの運営なので、5月は2日に続いて6日が外来なのだが、福島にいっていて休診にしたので、今日が一週間ぶりの外来となった。それであらためて感じたのが、内科の外来にくる患者さんには圧倒的に症状のないひとが多いということである。高血圧…

(23)2011・5・8「被災地へ・補足」

昨日書いた記事について「意外だったのが、原発の問題自体がほとんど話題にでなかった」という部分について、「これもまた問題ではないか」という指摘が友人からあった。表現が足りない部分があったと思うので、補足する。 訪れた新地町は福島県内ではあるが…

(22)2011・5・7「被災地へ」

5月3日から6日まで、福島県の新地町にいってきた。新地町は福島県北端の宮城県に接する海沿いの人口約8千人の町で、今回の地震と津波で100名以上の死者と行方不明者をだす大きな被害をうけた。現在まだ5ヶ所の避難所に300名以上の避難者がおり(…

(21)2011・4・28「池田清彦さんの本」

池田清彦さんの「激変する核エネルギー環境」」を読んでいる。 池田さんは養老孟司さんのお友達というか虫仲間で、奥本大三郎さんなどとともに昆虫命というようなひとである。要するに変わった人である。本職は生物学者のはずで、構造主義進化論などというの…

(20)2011・4・24「放射線防護学」

放射線防護学というのだろうか、生物が放射線を浴びたときにどのような影響を受けるのかという本を少し読んでいる。もちろん、医者として、レントゲン検査やCT検査、あるいは胃の透視といったことがどの程度の影響を患者さんにあたえるのかということにつ…

(19)2011・4・21

たまたま日本医科大学の救命救急担当のかたから話をきく機会があった。以下、一部わたくしが誤解しているところがあるかもしれないが、認識をあらためたところがあった。 今回の大震災に際しては、災害に備えて組織された救急医療の舞台はかなり迅速に対応で…

(18)2011・4・16「悲観論」

M・リドレーの「繁栄」によれば、インテリというのは悲観論が好きで、また周囲からも、悲観論を述べるものは思慮深いとされ、楽観論を述べるものは馬鹿かといわれて軽蔑されるのだそうである。 1960年代:人口爆発と世界的な飢饉 1970年代:資源の…

(17)2011・4・15「噂話ふたつ」

外来で患者さんと話をしていると、いろいろな噂話を耳にする。 ある患者さん「本当は東電は電気が余ってるんですって。でも計画停電とかで、足りないぞというふりをしているのは、だから原発は必要でしょ、っていいたいためなんだそうです。でも薬が効きすぎ…

(16)2011・4・13「平和」

診察室の窓の外に桜の木があって、毎年いまごろになると、なかなか見事に咲いて、それがひとしきり患者さんとの話題になる。しかし今年は桜のことが話にでたのはまだ一度だけなのに、もう、少し葉桜になりかけている。一見、変わらないようであっても、われ…

(15)2011・4・11「いやな感じ」

石原慎太郎氏が都知事に選ばれて何やらしゃべっていた。その言動をみているとこのひとはみんなが一緒になって何かをすることが好きな人なのだろうなと思う(それを指導するのは自分を想定しているのであろうが)。毛沢東語録を手に天安門広場に集まる群衆と…

(14)2011・4・4「よくわからないこと」

最近の報道をみていて、よくわからないことがいくつかある。 読売新聞の調査で、今後の日本の原発について、「現状維持」が最多になっていた。全廃論が多数になるかと想像していたのだが。これ以上は増やさないが、今あるものは廃止しないということなのであ…

(13)2011・4・3「原理主義」

今週号の「週刊文春」に養老孟司さんと阿川佐和子さんの対談が掲載されている。 今度の地震・原発事故の問題について、養老さんは、地震は自然の問題、原発は技術の問題といっている。地震と津波は自然現象で仕方がない。問題は原発は技術の問題であるのに政…

(12)2011・3・29

昨日、東電の副社長さんが、「今後の見通しはあと一月ですむか一年以上かかるのか?、なんともいえない」というようなことをいっていた。こういうことが表明されたのははじめてではないだろうか? 今の状態が日常になっていくわけである。 がんセンターが、…

(11)2011・3・28「関東平野」

ここで書いている内容には、自分が64歳であるということが非常に大きく影響していると思う。20年後の発癌などというわれてもどうということはないと思ってしまう。しかし、若いひとはそうは思えないだろう。わたくしの娘は去年の八月に子供を産んだが、…

(10)2011・3・27「言霊」

昨日の言霊の続き。 言霊を信じるというのは「ある言葉を口にすると、それが実現してしまう」という信仰である。それを逆にするとどうなるか? 「ある言葉を口にしなければ、それは存在しなくなる」である。「言葉狩り」というのはそれに由来するのだと思う…

(9)2011・3・26

昨日の「雨がガアガア降つゐます」の続きである。 これはアメリカの核実験についての話である。昭和35年ごろに書かれた文であることが重要で、そのころは東西冷戦というものが存在していた。ソ連とか中国とか東欧とかは天国で、西側は悪の巣窟。当然、北朝…

(8)2011・3・25「吉田健一の本から」

外来はほぼ普通通りにおこなわれいている。予約した人は大体くるし、どうでしたか?ときくと特に変わりはありません、という。次の外来の予約も今まで通りに行われている。地震の体験を口にするひともあまりいないし、1月後には東京がどうなっているかわか…

(7)2011・3・24「放射線障害と生活習慣病」

乳児は水道水を飲むなということになった。今までの報道は「・・が検出されましたが、直ちに健康障害が生じる心配はありません、というのが多かった。「直ちにはないでしょう」といわれると、「後からならあるのか」と思うのは人情で、今回の水道水にしても…

(6)2011・3・23「関東大震災」

昨日、城東地区の15ほどの病院があつまって、救急医療の段階を脱しつつあるが、これから長期のサポートが必要になる疾患が中心になっていくであろう被災地の患者さんが、交通手段が回復するにつれ多数東京にも来るであろうことを想定して、お互いのベッド…

(5)2011・3・22「神戸・淡路大震災」

「1995年1月・神戸」「昨日のごとく」をぱらぱらと読み返している。これは当時神戸大学の精神神経科の教授であった中井久夫氏がまとめた神戸の震災についての記録である。 中井氏は書く。「震災の中心が神戸とは家族の一人としてつゆ思わなかった。「神…

(4)2011・3・21「黒い白鳥」

ムラーの「今この世界を生きているあなたのためのサイエンス(1)には「チェルノブイリから住民を避難させたことは、正しかったのでしょうか?」という疑問が提示されている。当時のソ連政府は、生涯の被曝線量が35レム以上になると予想されるすべての地…

(3)2011・3・20「瓦礫の中」

吉田健一の小説「瓦礫の中」は敗戦直後の東京を舞台にしている。書き出しは「こういう題を選んだのは曾て日本に占領時代というものがあってその頃の話を書く積りで、その頃は殊に太平洋沿岸で人間が普通に住んでいる所を見廻すと先ず目に触れるものが瓦礫だ…

(2)2011・3・19

朝、わたくしの勤める病院のすぐ近くにある大きな病院の院長から電話があり、東北からの患者さんの移送をこれからうけいれていきたいと考えているが、一つの病院だけでは限界があるので、近隣の数病院が連携してベッドを調整しながら対応していきたいとのだ…

(1)2011・3・18

もう一週間がたってしまった。すでに細部は記憶から消えかけてきているが、東京の小さな病院でそれがどのように影響したかの記録として、以下、少し書いてみることにする。 3月11日(金) 地震がおきた時、外来のブースから患者がちょうどでたところで、…