家近良樹「孝明天皇と「一会桑」 幕末・維新の新視点」

 [文春新書 2002年1月20日初版]


 江戸から明治への転換は、本来諸藩の合議体制という江戸との連続性を残した体制に落ち着きかけていたのに、徳川慶喜のボーン・ヘッドによって、西郷・大久保路線に9回ツーアウトからの逆転ホームランを喫してしまったのだという話。
 司馬遼太郎的な明治観へのアンチテーゼでもある。
 攘夷思想にこだわる孝明天皇、老中まかせでなく自分の意見をもった将軍である徳川慶喜、それらの存在が結果として大きく歴史を動かしていく皮肉。
 これら個人の見解をこえて、今の体制では駄目なのだという多数の思いが歴史を変えていったのだという見解は、日本の現状について示唆的であるかもしれない。
 「一会桑」とは一橋・会津・桑名の意。
 「倒幕運動」といわれているものはほとんど反・一橋慶喜、反・会津藩、反・桑名藩であったのだという。
 現在の教科書的な歴史は、結果から見ているのである。そうではなく、ありのままの歴史を見ることが必要であると著者はいう。
 われわれは未だに、薩長が作った歴史観にとらわれているのかも知れない。


(2006年3月19日ホームページhttp://members.jcom.home.ne.jp/j-miyaza/より移植)

  • この本をなんで読もうと思ったのかよく思い出せない。この当時評判になっていたのかもしれない。歴史というのも進化論と同じで、現在できあがったものを当たり前と思うとたくさんの盲点で生まれるのかもしれない。(2006年3月19日付記)

孝明天皇と「一会桑」―幕末・維新の新視点 (文春新書)

孝明天皇と「一会桑」―幕末・維新の新視点 (文春新書)