藤沢秀行 「野垂れ死に」

 [新潮選書 2005年4月20日初版]


 わたくしは囲碁にはまったく関心がないが、藤沢秀行がとんでもないひとであるという噂はどこからともなくきいていた。これを読んだのは新聞で本書が紹介されていて、藤沢秀行が三つの悪性腫瘍の自然退縮を経験したと読めるような書き方をしてあったので、それは凄いと思って買ってきたのだが、胃がんとリンバガン悪性リンパ腫?)と前立腺癌にかかったことは確かなようであるが、胃がんは手術しているし、リンパガンには放射線治療前立腺癌にはホルモン治療をしているのであるから、自然退縮例とはいえないわけで、その点では期待はずれであった。
 しかし、それで本書を読んで藤沢氏が聞きしに勝るとんでもないひとであることがよくわかった。飲む打つ買うなんて生易しいものではなくて、自分がたてた家に一度も帰ったことがなくて(愛人のところにずっといて)三年目に用ができて、奥さんに電話して俺の家がどこにあるかわからん、迎えに来い、とかもう滅茶苦茶である。これで碁の天才でなければただの生活破綻者であるが、こういう人にもちゃんと多くのひとがついてくるというのは藤沢氏がとても器量が大きい人だということなのであろう。そしてたぶん奥さんがとてもできた人なのである。
 壇一雄殿山泰司を足したような人なのかなと思うが、これからはこういう人はでないだろうと思う。奥さんがすぐに出ていってしまうにきまっているからである。
 本書は「バカの壁」などと同じいわゆる聞き書き。これからこういう作りの本が流行るのであろう。


(2006年4月16日ホームページhttp://members.jcom.home.ne.jp/j-miyaza/より移植) 

野垂れ死に (新潮新書)

野垂れ死に (新潮新書)