突発性難聴の記

 
 2ヶ月以上前から左耳の調子が少し悪い。おそらく突発性難聴あるいはそれに類似の疾患と思われる。そうはいってもいたって軽症である。インターネットで突発性難聴について検索すると、さまざまな方の体験記がアップされている。いきなり聴力がゼロになるといった重症のかたがほとんどである。わたくしのような軽症の症例をわざわざ披露する意味はまったくないと思われるが、たまたま自分が医者であるという点がいささか特異であるかとおもわれるので(といってもこの病気にかんしてはまったく素人であるが)、以下に経過の中間報告を書いてみる次第。
 3月31日 朝。おきると何となく、左耳が塞がっているような感じがする。
 翌日、人の声(特に女声)が何となくキンキンと聞こえるのに気づく。
 4月2日、朝通勤のバスのアナウンスの声に電子音のピポパというような音が重なる。これはヤバイと思い、夕方、耳鼻科の先生にみてもらう(こういうことが仕事を休まずにできるのが病院勤めのいいところである)。聴力検査の結果、低音の方の聴力が低下していることがわかる(60db位)。「どうします? ステロイド使います? 普通の薬で様子みます?」「普通の薬でいいですよ」(こういう会話も、医者と患者の間では普通ないと思われる)、ということで循環改善剤などで経過をみることにする。
 その後、一進一退の感じ。
 4月9日ふたたび検査(こういうことが気楽にできるのが病院勤めのいいところ)。やや改善(50db位)。
 その後少し耳鳴りがでたり、改善したり。
 4月16日三度目の検査。やや改善だが、ほぼ横ばい。
 その後、よくなったり悪くなったりだが日常生活にはほぼ不自由なく(病院内のエレベーターでの案内の声(次は2階です、など)が左耳に重なって聞こえるくらいが気になる程度)、仕事が忙しく検査をさぼる。
 5月18日 音楽会にいくが、まったく耳は気にならず。ほぼ根治だね、と思っていたが、
 5月19日(土) 朝起きると耳閉感が非常に強い。
 5月20日(日)さらに悪化。
 5月21日(月)4回目の聴力検査。第一回の検査より低音部も悪化しており、日常会話に関係する中音域も少し落ちていた。「困りましたね。ステロイド使ってみましょうか」ということになり、いささか遅まきながらであるが、ストロイド治療を開始する。
 5月22日(火)聴神経腫瘍否定のためMR検査をするが何もなし。
 5月28日 5回目の検査。少し改善。
 6月 4日 6回目の検査。また少し改善とはいっても最初の検査よりはまだ悪いくらい。
 6月 5日より、耳鳴りが急に悪化。
 6月 9日現在、耳鳴りがやや治まっている状態。
 ごく大雑把にみると現在までの症状の前半は、そとに聞こえる音が響いたりするのが主で静かなところに一人でいる分には何の痛痒も感じない状態であったが、後半はそとの音はあまり響かないが、一人で静かなところにいると結構耳鳴りを感じる状態へと変化してきている。とはいっても本を読んだりしているときは忘れてしまう程度であるから、それほどの耳鳴りではないのだが。
 日常の業務への支障はほとんどない。強いていえば、聴診器を耳にいれたときに急に耳鳴りが強く感じるのと、音がやや右に偏って聞こえる点くらいであろうか?
 少し不思議なのはステレオ効果というか、音の定位にはまったく問題がないことである。これは高音部の聴力が保たれているためかもしれない(低音は音の定位がはっきりしないのだそうで、だから低音増強のウーファーはどこに置いてもいいのだそうである)。
 発症2月以上たっているので、症状がある程度残るのは仕方がないかなと思い始めているが、まだ日々症状が変化しているので(日内変動さえかなりある)、さらなる悪化もあるかもしれないし、あるいは改善があるのかもしれない。当面、wait & watch policy である。
 一つだけ困ったなと思っているのが、さすがにオーディオを聴く気がしなくなっている点で、どうもスピーカーを通した大音量というのがいけないのである。そろそろもう少しいいオーディオ装置に買い換えようとして矢先であったので、それをしなくてよかったとは思うが、集めた500枚ばかりのCDを聴くことがこの先あまりなくなるかもしれないとは思う(音量を下げてきけば何とかなるのだが)。オーケストラの定期会員になっているのも、これからどうなるか?
 人生というのはいつなにがおきるかわからないものであると思う(などというのは、この程度のことで、とても大袈裟な言い方であるけれど)。
 また1ヶ月か2ヶ月したら、経過報告をするかもしれない。