入院日記 (4) 5日目

 
 とても経過がいいので明日退院することになった。本当は今日でもいいのだが、荷物もあるので明日にしてもらった。休日の退院というのは病院からは歓迎されないのだが(勤務者が少ないので)、そういうわがままが許されるのが、病院勤務者の特権である。
 そういう特権をいろいろ享受しての入院であるので、また経過が予想以上に順調であったので、生まれてはじめての入院ではあるが、患者になってはじめてわかるというような経験はあまりすることがなく終わってしまった。
 もちろんナイチンゲールが「看護覚え書」でいうような、ベッドサイドにおいてあるが手が届かない吸い飲みといった問題はある。しかし、そういう問題はたとえば電動ベッドというようなものがかなりの程度解決してしまう。実際、腹部の手術のあとでは腹筋に力を入れるような動作がつらい。だからベッドの上で起きるというようなことが大変である。電動ベッドの恩恵を痛感した。わたくしどもの病院は今年三月に病棟のすべてのベッドが電動になった。これは看護部門からの強い要望があってであるが、こういう問題については、医者より看護部門のほうが関心が強い。こういうことも入院して実感したことであるかもしれないが、知識としては知っていたわけで、患者になってはじめて気がついたということはあまりなかった。まあ、一番大変なところは寝ているかうとうとしているうちに過ぎてしまったのだが。
 アメリカなどでは大腸の内視鏡検査などは麻酔下でやるのが普通らしい。あんな辛い検査を覚醒のままやるのは言語道断ということらしい。もっとも内視鏡医と麻酔科医の双方が立ち会い、費用は日本の十倍位らしいから、一概に比較はできないのだが。しかし辛い検査は寝ているうちにという気持ちはよく解る。歯科の治療も全身麻酔下でできないものだろうか?
 やはり医療は進歩しているのだと思う。わたくしが医者になったころ胃の手術などは一月入院が普通だったように思う。胆石の手術に腹腔鏡手術がとりいれられてからもうどの位になるのだろうか? はじめてこの手術法をきいた時に、わざわざやりにくい方法で手術することはないのにと思った。それが患者さんのためになるということに思いいたらなかった。これもまた患者になって実感できたことの一つかもしれない。