その2 新入社員

 
 明後日、ある会社の新入社員のかたに、健康管理について話さなければならないことになり、さて困った、どんなことを話したらいいかと思っていた。
 最近の若い方はかなりの肥満のかたが多く、なかにはBMIが40をこえるひとなどがいて、確かに困った問題ではあるが、それはほとんど男性であり、男性も全部が太っているわけではないから、それをテーマにするのも一般的ではないしと思って、なにかネタはないかと思っているうちに、中井久夫さんの「看護のための精神医学」を思い出した。
 最近、ある会社の産業医をはじめたが、そこにはうつの人が多く、その職場復帰の問題で頭を悩ましていて、この本も参考に読んでいたのだが、そこの「生活再開にあたっての助言」というのが、精神疾患のひとにだけではなく、仕事を始めるひと一般に当てはまるのではないかと思えてきたのである。もっとも中井氏もそれを意識しているかもしれなくて、この「付録3」のタイトルは「仕事のみならず、一般に生活再開にあたっての助言」となっている。新入社員は仕事再開ではなく、はじめて仕事をするわけであるが。
 考えてみれば、学生生活というのは長期のモラトリアムであり、患者さんが調子が悪くて静養しているとの相当部分で重なるのかもしれない。それで、中井氏の本からいくつかの助言を拝借させていただいてお茶を濁すことにした。まさか新入社員のかたも、自分がきいている話が精神疾患の人の職場への復帰などについての助言であるとは思わないであろう。
 初七日、四十九日、百か日、一周忌という仏教の行事が、そのままわれわれが何かをはじめてから疲れを感じるまでの期間と一致すると中井さんは言っている。
 「3日、30日、3ヶ月、3年」ということも言われている。人事の人がよくいう、就職してから退職を申し出る期間なのだそうである。30年というのはないが、わたくしは今の職場に勤めて30年になった。疲れがでてくるころである。
 

看護のための精神医学 第2版

看護のための精神医学 第2版