今日入手した本

不謹慎 酒気帯び時評50選

不謹慎 酒気帯び時評50選

 「週刊SPA!」に連載されている対談を収めたもの。すでに何冊目かで、前にも一度感想を書いたような気がする。
 福田氏と坪内氏を較べると、福田氏のほうがずっと腹がすわっているというか覚悟ができている感じで、坪内氏はなんだか文壇事情のあれこれに気を配りすぎているような気がする。福田氏だって気を配っているのかもしれないが、その芸が高度で許せる感じがする。あるいは福田氏にははっきりと敵が見えているのに対して、坪内氏は今は敵側の人間でも将来は自分の陣営にくるかもしれないと思って、あるいは敵と喧嘩するのは仕方がないが、その友達とは喧嘩したくないと思って、強がっているわりには切っ先が弱いところがある印象である。
 サブタイトルのように半分くらいはよっぱらいのくだのようなどうでもいい話であるが、ところどころ面白いところがある。まだざっと目を通しただけであるが、とりあえず、いくつかを抜いてみる。
 「アメリカの場合には、マチュアリズムこそが民主主義だって考え方が根底にあるけれど、イギリスの場合はちょっと違ってて、一つの専門にこだわることがあんまり尊敬されない社会なんだよね。・・専門性を高めるってのは、召し使いとか奴隷の仕事で、本当の統治者ってのは、アマチュアっていうか、専門的なことはわからないけど、自分の理性で判断する能力を持っている人、というか。」(福田氏)
 「第二次世界大戦で、ロンドンが空襲されて、映画館に爆弾が落ちてパニックになった、と。みんな我れ先に逃げようとしたとき、誰かが「我々は紳士ですぞ」といったわけ。それで女性、老人を逃がして、壮丁は最後まで残って焼け死んだ・・」(福田氏)
 「難しいよね、右と左の境界は。でもね、ワタクシ、だんだんわかってきた。女にダマされる人は右、女ダマして、ダマしてないふりする人が左、いろいろ、かなり頑張って考えたんだけど、ほかに結論がないんだよ。わははは。」(福田氏)
 「でもまあ、ハッピーじゃないこと自体が犯罪だからね。モンテーニュが言うように、「幸せな心持ちであるように努力するのは義務」だから。楽しくあるのは義務ですよ、人間の。最高のモラルですよ。」(福田氏)
 「ワタクシは、神なんて絶対、いないと思うけどね。神はいないけれど虚無じゃない世界、ってのはあるんじゃないかな。」(福田氏) これに対して坪内氏はパスカルの賭けなんて話を持ち出して「オレは、「神がいる」に賭けているわけ、安全パイとして。」なんていう。坪内氏は若いこと福田恆存に打ち込んだひとらしいけれど、その悪い影響なのだろうか。こういうのは悪しきカトリックであるようにわたくしには思える。
 「全共闘世代ねぇ。あの人たちは、わかいそうだよね。一番教養ないもん。教養もないし、人生の快楽もほとんど知らないでしょ。あれは、かわいそうな人たち。すごく貧しい人たちだよ。・・鳩山なんか「いっぱいカネ持ってる貧乏人」だからね。あれは人生の貧乏人ですよ。・・管さん、区役所の課長ぐらいだったらすごくよかったんだけどねぇ。そのクラスだよね、あの人は。」(福田氏)
 最後のはこたえるなあ。一生、教養もなく、快楽もしらずに終わるのかなあ、と思う。
 でも、こういうことを言えるのが福田氏の強さである。それにくらべると坪内氏はあまり幸福にはみえない。いろいろなことを知っているのだが、それが体の深くにまではいっているようにはみえない。教養というのは肉体化した知識なのだろうと思う。本を書くことに追われて、仕入れた知識を次々に吐き出すような自転車操業状態になって、それが発酵するまでの時間が持てないのかもしれない。
 なんだか福田氏からの引用ばかりになってしまった。福田氏の強さは、若いころ「奇妙な廃墟」のような時流に逆らった売れそうもない本をじっくり勉強して書く時間を持てたことにあるのだろうと思う。