今日入手した本

ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

 E・ウォーの中編小説。吉田誠一氏が「囁きの霊園」という題で訳していたのを読んだ記憶があるがなんだかぴんとこなかった。解説によれば出口保夫氏の訳もあるようだが、これはみていない。原題は「The Loved One」で、葬儀業界の隠語で「故人」の意味なのだそうである。ということで、アメリカの葬儀産業を舞台にした小説なのだが、「ご遺体」という題名はなにかちょっとね、という気もする。ということなのか、近々、岩波文庫からも「愛されたもの」というタイトルで別の翻訳も刊行されるようである。
 ウォーの小説がいろいろ翻訳されるのは嬉しい。
 わたくしとしては、ウォーの小説はほとんど吉田健一の小説という印象で、その訳による「黒いいたずら」「ブライズヘッドふたたび」「ピンフォールドの試練」などとてもとても面白かった。富山太佳夫氏訳の「大転落」もよかったが、大久保譲氏の「卑しい肉体」はいま一つという感じだった。とても訳するのが難しい作家なのだろうと思う。その文体の生気のようなものをどれだけ日本語にできるか、それが勝負なのであろう。