今日入手した本

現代精神医学批判

現代精神医学批判

 計見氏の本は「脳と人間」が面白かった。レイコフらの「肉中の哲学」はかなりエクセントリックな翻訳で、ついていけなくなって途中でやめた。「脳と人間」には吉田健一の「時間」からのかなりな引用があってびっくりした。丹生谷貴志氏の吉田健一論にも精神科医中井久夫氏の著作からの長い引用があって、吉田健一精神科医療とはどこかで通底しているのだろうかと思った。私見によれば、吉田健一にとって「近代」とは狂気の時代なのであって、「現代」はその治癒のための時代である。だから吉田健一は「現代」にあってもまだ近代の狂気を引きずっている人間を徹底的に軽蔑した。病気を自慢するひとを吉田氏は何よりも嫌った。しかしそうなったのは吉田氏自身が「近代」の狂気のなかにいた時代があったからである。氏の晩年の著作は何よりも自己治癒のための試みであったとわたくしは思っている。病気になったら必要なことはまず治ろうとすることである。治ろうという意思のないひとは駄目なひとである。氏の後期の著作は何よりも自己説得のためのもであったはずである。本書でもまた吉田氏の「時間」からの引用がある。まだDSM−3についての議論を読んだだけであるが、面白い。わたくしがDSM−3とかEBMとかいうものに感じる生理的嫌悪感のようなもの、その根拠が少しわかったような気がした。
 
脳のなかの天使

脳のなかの天使

 ラマチャンドランの本は「脳のなかの幽霊」がとんでもなく面白かった。本書では「はじめに−ただの類人猿ではない」という章があり、最後の章が「魂をもつ類人猿」というタイトルであって、吉田健一から「人間は動物である」という視点を教えられてと思っているわたくしにとっては大変おもしろそうな本である。第7章が「美と脳」であり、第8章が「アートフル・ブレイン」である。音楽と数学というのが人間という動物の最大の問題点であると思っているので、どんな内容であるのか早く読んでみたい。
 
 それにしても吉田健一の手のひらの中からなかなか逃げられないままでいることをつくづくと感じる。