今日入手した本

 

うつの医療人類学

うつの医療人類学

 朝日新聞の読書欄で紹介されていた本。
 産業医療という分野に少しかかわるようになり、仕事をしているひとのメンタル不調の問題が他人事ではなくなってきて、「うつ」という問題が避けて通れないないものとなってきているが、少しばかり本を読んでみても唯々混乱するばかりである。結核という病気が世界のどこにいっても結核であるので(というのはかなり単純すぎる見方であるとしても)、その病因や治療法については大筋の合意がえられるのではないかと思うが、メンタル疾患については、統合失調症双極性障害といった身体因がつよい病気においてはそれほどではないとしても、うつのような病気についての理解に関しては文化的な要因が非常に大きくかかわるらしい。「メランコリー親和型」とよばれる性格とうつ病発症との関係は日本とドイツ以外ではまったく問題にもされないらしいが、内科医で時々うつの患者さんに接することをしていた時には非常に説得的なものであった。どうみてもそれでうまく説明できる患者さんに少なからず遭遇した。しかしうつ病がもしも文化的な背景と根強く関係するものであるなら、急速に変化しつつある日本の文化的状況はうつの病態にも深く影響するはずである。
 本書は日本におけるうつ病の理解がどのように変遷してきたか、日本でのうつ病理解が日本の文化状況とどのようにかかわってきたのかを論じたものである。まだ三分の一くらいしか読んでいないが、きわめて興味深い指摘が多い。
 
大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるか

大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるか

 本書も朝日新聞読書欄で紹介されていた本。
 これも広い意味での産業医的関心から興味をもったのかもしれない。
 これから日本の会社はどうなっていくのか、仕事というのがどうなっていくのか、それについてはいろいろな見方があるであろうが、本書はそれについてのある立場を表明するものらしい。
 まだ巻末の若田部晶澄氏の「解説」を読んだだけだが、現在のアメリカでも経済停滞と所得格差拡大は事実として存在していることはみな認めるが、それがなぜおきているのか、それにどう対応したらいいのかについては諸説あるらしい。大きくは3つあって、「長期停滞説」「大停滞説」「雇用の喪失説」(技術的失業説)になるのだという。
 「長期停滞説」はサマーズやクルーグマンらによるもので、巨大な需要不足が問題だとするもの。「大停滞説」はコーエンの前著「大停滞」でもいわれていたもので、無償の土地・イノベーション・教育を受けていない賢い子供といったこれまで利用できた成長の源泉の枯渇が原因とする。「雇用の喪失説」は科学技術の進歩が多くの労働力を不要にしていくのが原因とするものらしい。前著で第2の立場であったコーエンは本書で第3の立場に乗り換えたのだそうである。
 第一の立場をとれば、マクロ経済政策と所得再配分でなんとかなるということになるらしいが、第2・第3の立場ではもはやいかんともしがたいということになるのかもしれない。
 日本だけでなく世界中がなにか大きな壁に直面してきているのだろうか?