今日入手した本

ピンフォールドの試練 (白水Uブックス)

ピンフォールドの試練 (白水Uブックス)

日ざかり

日ざかり

 
 どちらもすでに持っている本であるので本来は買う必要がないのかもしれないが、「ピンフォールド・・」は集英社版の世界文学全集(1977)の一部に収められているので、単著としてではない。今回、白水Uブックスの一冊として手頃な大きさの本として刊行されたので、こらから読み返すときのことを考えて入手した(全集と同じ吉田健一訳)。「日ざかり」は1952年刊行の吉田健一訳の新潮社版(これは古書店から購入したが相当高価だった)をもっているが今回、太田良子氏の訳で刊行されたので違う訳で読んでみるのもいいかなと思い購入した。太田氏の「訳者あとがき」によれば原題の「The Heat of the Day」は「あの日の熱気」であって、第二次大戦中の熱気というようなことでもあるらしい。それを「日ざかり」と訳すのは健一流なのかもしれない。確かに「陽ざかり」ではなく「日ざかり」なのである。こちらは日中の暑さのことを英語では the heat of the day というのかなと単純に思っていた。ウオーの Black Mischief を「黒いいたずら」と訳す人なのである。Yellow Mischief なら黄禍ということらしいから、これは直訳すれば「黒禍」である。それを「黒いいたずら」とするのが健一流のエレガンスなのかもしれない。
 「日さかり」の冒頭を二人の訳で見てみる。
 吉田健一訳「その日曜は六時からウィンナ音楽を演奏してゐた。外で音楽会をやるには少しもう寒過ぎて、既に枯葉が芝生の舞台の上に舞ひ上り、―それが引つくり返り、死にかかりでもしてゐるやうに震へて、演奏中にもつと落ちて来た。」
 太田良子訳「その日曜日は、夕方の六時から演奏しているのはウィーンの管弦楽団だった。野外でコンサートをするには遅い季節だった。すでに枯葉が草地のステージに吹き寄せられていた―そこここで枯葉がひらひらと舞い、死の前ぶれのようにかさかさと鳴り、演奏中にもさらに何枚も散り落ちてきた。」
 ついでに原文。「That Sunday, from six o'clock in the evening, it was a Viennese orchestra that played. The season wasa late for an outodoor concert; already leaves were drifting on to the grass stage― here and there one tuened over, creaping as though in the act of dying, and during the music some more fell.」
 一見して、太田氏の訳は原文に忠実であるが、吉田氏の訳のほうが読みやすいとわたくしは感じる。日本語として自然な感じがする。太田氏の訳は何か背後に英語の原文が透けてみえるように思える。わたくしが健一中毒なのでそう感じるのかもしれないが。
 太田氏の解説によれば、ウォーとボーエンは親しかったらしい。