DM記

 DMというのは Diabetes Mellitus の頭文字をとったもので、糖尿病のことである。医療の世界では普通に流通しているジャーゴンであるが、一般にどの程度通用するのかはわからない。世界によってはダイレクト・メールだったりするのかもしれない。
 これは遺伝性の高い病気で、血筋に糖尿病の人がいるひとはかかりやすい。若年に発症する重症型は口渇・多飲・多尿という糖尿病の典型的症状を呈することが多いが、中年以降に発症するいわゆる成人病としての糖尿病はほとんど症状がなく、検査をしてはじめてわかる場合が多い。完全な健康と完全な糖尿病の中間にさまざまな段階があるから、どこからを糖尿病とするかの線引きは厳密なものではなく、かなり恣意的なものである。
 わたくしは父が糖尿病、母は違うが母の姉も糖尿病、母方の祖父も糖尿病であり、弟も糖尿病と、遺伝負荷があることは確実である。それでわたくしも健康診断での指数が数年前から正常とはいえない数字となっていたが、家系からいって当然だよね、と気にもかけずに相変わらず暴飲暴食を続けていた。
 例年5月に健診を受けているのだが、昨年は事情があり受けそびれ、今年5月に2年ぶりに健診を受けた。もうそろそろやばいかもね、と思っていたのだが、数字をみてあれれということになった。
 HbA1cという検査がある。赤血球にブドウ糖がどの程度くっついているかを見る検査で、糖は一度赤血球にくっつくと簡単に離れないらしく、最近血糖値が高いひとは、その数字が高く、おおよそ最近二ヶ月くらいの血糖の高さ、つまり糖尿病の状態を反映するといわれている。それが9.6だった。医療にあるていどかかわっているひとであれば、この数字が芳しからぬものであることはわかるだろうと思う。ちなみに2〜3年前はそれが6.4くらいだった。上記の理由でこの正常値をいくらまでとするかはいろいろ議論があるが、甘めの基準で6.2以下、もっときびしいものでは5.8以下くらいといったところだろうか? その基準を超えたらすぐに投薬治療というわけではなく、食事に注意して運動をこころがけて経過をみましょうといったことになる場合がほとんどである。
 しかし9.6は経過をみましょうという限界をこえているので、まあ仕方ない少しまじめにやってみることにした。それがわかったのが五月の後半、1)原則として寝酒(缶ビール1〜2本あるいはウイスキー1〜2週間で1ボトル程度)をやめ、2)食事制限(主食を減らし、原則間食はせず程度)と、3)運動(今までバスを用いていたところを歩く程度)、それにメトフォルミンをいう飲薬を最低量内服、ということで始めてみた。
 それで一ヶ月後に検査してみたら、8.1まで低下していた。上に書いたようにこれは二ヶ月の平均であるから、その測定時には計算上は6.6くらいということになる。そんなによくなるかねえと思ったが、さらに一月後の7月末には、本当に6.6になっていた。最近では6.1だった。つまり数年前よりもいい数字になっているわけである。もちろん数年前は暴飲暴食し放題、今は一応節制中であるのだけれども。
 今から思うと、飲み薬をはじめずにみたほうが、日常生活注意でどの程度の改善がみられるかもっとよくわかったはずである。もう一月のんでみて、さらに改善していれば、一旦、内服なしでもいけるようになるかもしれない。
 ささやかな患者体験。1)食事制限は最初に1週間か十日くらいは何でもないと思ったが、二週間くらいから夕食前の空腹感をいささか感じるようになったが、最近はまた慣れた。しかしこれは内科の医者という身体を動かさない口先商売をしているから可能なので、肉体労働をしていたらもたないだろうと思う。2)特に一ヶ月くらいして大分改善した後からは、服薬を時々忘れるようになった。患者さんがしばしば薬を余らせる理由がよくわかった。症状がない場合にはどんどんと病気意識が希薄になる。3)5月6月くらいはよかったが、7月くらいから暑くなると「ちょっと歩く」というのが苦痛になった。食事と運動に注意などと気楽にいうけれども季節要因というのも馬鹿にできないと感じた。
 商売がら、月に2〜3回、夜の会などがあるが、その時は飲食をとくに制限はしなかった。時々は例外を作らないと長続きしないという言い訳による。現在のデータならそれでもいいのかと思っている。体重は3月で4キロくらい減った。
 まだ数ヶ月の経験であり、経過から段々と対応がいい加減になっていく可能性も高いだろうとは予測している。悪化でもしたら、また経過を書くこともあるかもしれない。