今日入手した本
内田樹「困難な成熟
- 作者: 内田樹
- 出版社/メーカー: 夜間飛行
- 発売日: 2015/09/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「60年代前半において、平均的日本人が自分の未来について抱いていた最大の不安は「核戦争の勃発」だったんですから。/ ほんとですよ。/ 62年のキューバ危機のとき、米ソはほとんど核戦争の手前までチキンレースで意地を張り合っていました。・・60年代前半は「核戦争が起きて、人類は滅亡するのかもしれない」という暗澹たる予測が常識だった時代だったんです。そう言っても、若い人にはなかなか信じてもらえないかもしれないけれど、その時代の、例えばクレージー・キャッツの映画の底抜けの明るさなんかも、「核戦争の不安」を抜きにするとうまく理解できないと思います。/ ある種「やけくそ」なんです。明日はどうなるかわからない。だったら、どっと楽しくやろうじゃないか、と。」
そうなのだった、50年代〜60年代、東西が「人類の滅亡」を賭けて対立していたということこそがマルクス主義をリアルなものにしていたのだった。
上の内田さんの文がどういう文脈の中ででくるのかというと、年金問題なのである。自分たちが若いころ、年金という問題がリアルなものでなかったのは「年金をもらう自分」の姿をどうしても想像できなかったからなのである、と。だから若い世代が世代間の格差の問題として真剣に年金を論じることに違和感を感じる、と。
そして「60年代後半から70年代前半までは今度は核戦争じゃなくて、世界的なスケールでの政治的激動の時代でした」、として中国では文化大革命、アメリカではベトナム戦争とヒッピームーブメントと公民権運動、フランスでの五月革命・・といって、世界の明日が誰にも予想できない時代だったのだ、そういう時代に誰が年金の話などするものか、と。そして、それが終わると、享楽と奢侈のバブルの時代。日本中の人々が株と不動産取引に夢中。そんな時に誰が年金の話をするだろうか?
そして今の若いひとが自分が年金をもらう年齢になるまで日本のシステムが「このまま」で推移するとどうして思えるのか、それもわからない、と。大規模な自然災害、新たな原発事故、朝鮮半島の政治情勢、中国や韓国との外交関係、アメリカの西太平洋戦略の転換、中国のバブル崩壊・・・大問題はいろいろあるのに。それを先行世代が自分の取り分が多い制度を壊したくないばかりに出来の悪い年金制度をそのままで放置していて、それで自分たち若い世代の取り分が少なくなったなどと言うのも買いかぶりである、と。そんなに頭はよくない。単に何も考えていなかった、そのうちに経済が上向けばなんとかなるんじゃないの漠然と思っていただけである、と。最後の「中国のバブル崩壊」だけはあるいは現実になりつつあるのかもしれないが、吉川洋氏が「高度成長」で描く日本とは全然違う世界である。
それで、内田氏が奨める「今、日本人が読むべき本七選」、荷風「断腸亭日乗」、勝小吉「夢酔独言」、勝海舟「氷川清話」、福沢諭吉「痩我慢の説」、幸徳秋水「兆民先生」、幸田文「父・こんなこと」、吉田満「戦艦大和ノ最期」。秋水と文以外は読んでいる。結構な打率かな? 「断腸亭日乗」は当然?ごく一部だけれど。
小田嶋隆「超・反知性主義入門」
- 作者: 小田嶋隆
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2015/09/15
- メディア: 単行本
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最近の内田氏の進歩的文化人的発言からは、この(笑)がなくなっていると思う。含羞がなくなっている。これがなくなると、正義の人になってしまう。正義の人になると、嫌韓嫌中・美しい日本の人と五十歩百歩になってしまう。
ところで本書を買ってみる気になったのは、本屋で立ち読みしていて、最後にある森本あんりというひととの対談で小田嶋氏がかつてアルコール依存にかかり、そこから抜け出したひとらしいことがわかり、その部分が面白かったからである。自分の専門にも若干関わるし。それでその対談を読んでいて、森本氏の「反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体」も面白そうに思って買おうと思ったのだが、在庫切れであった。今年の2月に新潮選書ででた本がもう切れているということがあるのだろうか? 東京駅の丸善という大書店なのだが・・。