佐野洋子「ヨーコさんの“言葉” それが何ぼのことだ」

ヨーコさんの“言葉” それが何ぼのことだ

ヨーコさんの“言葉” それが何ぼのことだ

 NHKテレビに「ヨーコさんの“言葉”」という番組があって、それを書籍化したものらしい。テレビをほとんど見ない人間なので全然知らなかった。すでに一冊刊行されていて、これが二冊目であるらしい。佐野氏のエッセイから言葉を選んで、それに北村裕花という方が絵を添えたもの。
 佐野氏は絵本作家ということになるのだと思うが、絵本で読んでいるのは「100万回生きたねこ」だけで、後はもっぱら雑文の方。この本も例の佐野節といえば佐野節で、たとえば、「さんざん女房を泣かした人が、女房が病気になるとすべてをなげうち看病と真心をささげ、一周忌には涙なしには読めない美しい愛妻記を友人知人にくばり、三回忌のころには若い新しい女房とはつらつとやったりするのを知ると、側に行って肩をたたいて、おいしいお寿司なんかしみじみとごちそうしたくなる。何が一番不可解かと言えば、男と女の関係が不可解で、こればかりは、ビタミンA0.03mgなどと言えないのが、気味悪く、またいい気持である。」 また「私はフネを見るたびに人間がガンになる動転ぶりと比べた。この小さな生き物の、生き物の宿命である死をそのまま受け入れている目にひるんだ。その静寂の前に恥じた。私がフネだったら、わめいてうめいて、その苦痛を呪うに違いなかった。私はフネのように死にたいと思った。人間は月まで出かける事が出来ても、フネのようには死ねない。フネはフツーに死んだ。太古の昔、人はもしかしたらフネのように、フネのような目をして、フツーに死んだのかもしれない。」
 こういう文章を読んでいるとなんとなく佐野氏のことがわかるような気がするのだが、このひとが谷川俊太郎と結婚していたひとだということがわからない。また谷川氏が佐野氏と結婚したというのもわからない。谷川氏は典型的な「世間知らず」のインテリであるのに対し、佐野氏は「世間」に生きる野人だと思うのだが。水と油のような気がする。やはり「男と女の関係は不可解」なのである。