虫明亜呂無「女の足指と電話機」

 虫明亜呂無という名前は知っていたが読むのは初めて。91年になくなった氏の文章を雑誌などでおそらく読んだことはあったに違いないが氏の書いた本を買った記憶はない。
 今ぱらぱらと見ていて、随分と艶めかしい人なのだなと思った。あるいは女性的な感性のよくわかるひと。たとえば映画「地獄の黙示録」について書いているところがあって、「この映画を見た女性たちは、例外なく『地獄の黙示録』はセクシーな映画だと言っている」とあった。「体に熱いものが、ゆきわたった」と異口同音に告白するのだそうである。以前みたときに随分と観念的な映画だなと思った記憶があるので、へーと思った。男は頭で理解し、女は体で感じるということなのかもしれないが、たぶん感じるということについては男は女に絶対に敵わないのである。だからこそ、男は知性で武装して女に対抗するのだとどこかで三島由紀夫が書いていた。男の男たるゆえんはすぐに地に足がつかなくなることにある、つまり観念的になるところにある。ところが女はそれをすぐに地上に引き戻してしまうのだ、と。こういうところで三島の女嫌いが露呈するのだが、何しろ女は地に足がついているのだからすぐに観念に走る男が勝てるはずがないのである。
 わたくしは映画をほとんどみない人間であるが、本書を読んでいて、いくつかの映画をみたくなった。
 D・H・ロレンスの「チェタレイ夫人の恋人」の第二稿である「ジョン・トマスとレイディ・ジェイン」というのが紹介されている。われわれが普通読むのは最終稿の第三稿である「チャタレイ夫人・・」なのだが、それよりもずっと面白いというのである。最終稿は思想的になっているがゆえにつまらなくなっているのだそうである。これまた読んでみたくなった。