今日入手した本 布施英利「養老孟子入門」ちくま新書 2021年3月

  著者の布施氏は養老さんのお弟子さんのような方なのだろうと思う。最初氏のことを知った時に、東京芸大出身の人が何で東大解剖学の助手をしているのかなと不思議に思ったのと、変わった髪型の人だなと思ったことを覚えている。
 氏は美術という文系から解剖学という理系に越境してきた人なのだろうと思うが、養老孟司というひとは解剖学という理系から文系への越境を図った人である。
 理系と文系の対立というのは、S.P.スノーの「二つの文化と科学革命」以来一向に解決していない大きな問題だと思うが、わたくしが養老氏に抱く興味も氏がその双方に二股をかけている人という点にあるように思う。
 わたくしが最初に読んだ養老氏の本は1985年の「ヒトの見方」でその第一刷をもっているからもう40年近く前からのお付き合いである。東大解剖学の教授が変な本を書いているという噂が流れてきて、それで読んでみることにしたのだと記憶している。おかげで書棚には60冊をこえる養老さんの本があった(対談本などをふくむ)。

 「ヒトの見方」で印象に残っているのは「あとがき」の「「この先まだ頑張るつもり」というところと「いわゆる自然科学の文章を、日本語で表記したいという気持ち」という部分である。多分、その実践例として「トガリネズミからみた世界」と「ネズミのヒゲと脳」「わが始祖、食虫類に魅せられて」という3つの論文?も収載されている。
 「自然科学の文章を、日本語で表記したい」というのは実際には(狭義の)学者であることを放棄することに等しいようにわたくしには思われたので、そんなことを東大解剖学教室の教授がして大丈夫なのかなと思った。
 その後、氏は実に多くの文章を書いているが、それは「いわゆる自然科学の文章」では無く、メタ自然科学というかあるいは自然科学とは何かという方向のものであり、さらにはおそらく文系の論と分類されるであろう現代の人間が志向している方向への批判(「「都市主義」の限界」など)に向かっているように思う。

 わたくしは「バカの壁」以降の養老氏の氏はちょっと緩んできているのではないかと思っているのだが(参勤交代の勧めとか)、布施氏は養老氏の思考は一貫して進展してきているとしているようである。
 これを参照して改めて養老氏の本をまとめて読み返してみようかと思う。