[読書備忘録」町田康「真実真正日記」

  講談社 2006年10月31日初版
 
 町田氏もこんな本を書いていてはいけないと思う。
 小説家がとんでもない出鱈目な小説をかきながらバンドをやっている話がだらだらと書かれているだけである。ほとんど町田氏の知っている世界のみが書かれている。昔の私小説とは違って、一見荒唐無稽風の話であるが、まだ以前の私小説にはあったであろう、本当のことを書こうとか、本当らしい嘘を書こうという制約というか緊張がなくなってしまえば、あとはただの思いつきが延々と書き連ねられていくだけである。それが、もともとの町田氏の饒舌体で書かれると、何の中身がないことが途方もない長さで描写されていくことになる。ある章など書き出しから4ページの描写のあと、「いまここに書いてきたようなことはたった二行で表現できる。つまり、/寒くなると日本酒が飲みたくなるが自分でお燗をつけて飲むのはいかにも侘しいので近所に新しくできた蕎麦屋に出掛けて行った。」と自分で書いていて、事実、その通りなのである。石川淳氏の小説なども文章だけというような批判があったと思うが、そこには石川氏のいう精神の運動、エネルギーというか熱気というか、何かが紛れもなくあったのに対し、この町田氏の本では、何か罪の意識のようなもの、救済への希求のようなものは幽かに感じられとしても、そういうものは芸とともに提示されないと、困るのである。「パンク侍・・・」や「告白」には存在していた他者がここではいなくなっていて、作者一人しかいない小説になってしまっている。こういうものでもとにかく書き続けていないと生活できないくらい、現在の作家の状態は大変なのであろうか? 谷崎賞をとったくらいではもはや追いつかないのだとすると、なんだかとんでもないことになっているのかも知れないが・・・。
 

真実真正日記

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