「第九交響曲」

今日の朝日新聞の朝刊に音楽学者の岡田暁生氏が「「第九」再び抱き合えるか」という文を寄稿している。「いつか「コロナは去った」と世界の誰しもが感じるようになる日。それを祝うコンサートとして、ベートーベンの「第九」ほどふさわしい曲はないだろう。…

熊代亨「健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて」

書店で偶然に見つけた本である。著者の名前も知らなかったが、ブロガーでもあるとあったので検索してみたら、氏の「シロクマの葛籠」というブログはいままで何回か目にしたことがあった。 本書を読んで第一に感じたのが、世代の違いということである。 著者…

新型コロナウイルス感染 いくつか

新型コロナウイルス感染については、いまだによくわからないところが多い。 たとえば、まずマスク着用の有効性。岩田健太郎氏の「新型コロナウイルス感染の真実」では、自分が有症状(咳嗽があるなど)でなければ着用の意味はないとされていた。岩田氏は少な…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(6)

第5章「どんな感染症にも向き合える心構えとは」 この章には、よく理解できないところが多かった。 「感染症と向き合う上でまず大切になるのは、『安心を求めない』ということです」という主張からはじまる。「安全」というものは現実に存在する、しかし「…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(5)

第4章は「新型コロナウイルスで日本社会は変わるか」と題されているのだが、やや羊頭狗肉の趣がなきにしもあらずで、その点について岩田氏の明確な主張がなされているとは必ずしも思えず、論点の列挙におわっているような印象をうけた。 岩田氏は日本の感染…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(4)

第三章「ダイヤモンド・プリンセスで起こっていたこと」は約60ページあり、本書で一番多くの紙数が割かれており、岩田氏がもっともいいたかった部分であろうと思われる。そしてそこでいわれるダイヤモンド・プリンセス号でおきていたことには、日本が持つ…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(3)

第二章「あなたができる感染症対策のイロハ」 主な感染経路は二つ。飛沫感染と接触感染。飛沫感染は患者がくしゃみとか咳をしたときに生じる水しぶきによって生じる感染。飛距離は2mくらい。接触感染は、患者から飛んだ飛沫が何かの表面につき、そこに別の…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(2)

本書での岩田氏の関心はかならずしも狭義の新型コロナウイルス感染の問題にはなく、この感染流行から露呈されてくる日本の抱える様々問題を指摘することにもあるように思うが、まず巻頭におかれた狭義の医学的論議から見ていく。1)ウイルスとは何か?: 専…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(1)

奥付では2020年4月20日刊になっているが、先々週から書店には並んでいたように思う。「あとがき」の日付は3月23日。出版を急いだため、口述したものから文章を起こしたものらしい。 「はじめに」、第一章「「コロナウイルス」って何ですか? 約35…

ある日の中小病院での外来

昨日は、雨風が強い荒天ということもあったのかもしれないが、外来の患者さんが異様に少なかった。一つには先週から容認された患者さんと電話で連絡して問題なければ患者さんが指定する薬局に処方箋をファックスで送るというやりかたへの対応として10人く…

救急医療とCOVID-19

この数日の新聞などの記事で、新型コロナウイルス感染のために救急医療が危機に瀕しているというようなことが多く書かれている。発熱などの患者が多くの救急病院で断られ、結果として最前線の一時救急を担当する救急センターにそういう患者さんが集中し、結…

三浦雅士「石坂洋次郎の逆襲」(2)

渡部昇一氏の「戦後啓蒙のおわり・三島由紀夫」(「腐敗の時代」1975年 初出「諸君! 1974年12月号」)は三島由紀夫、特にその「鏡子の家」、を論じたものであるが、昭和35年(1960年)の日本社会党委員長浅沼稲次郎刺殺事件から稿を起こし…

マスクが目立つコンサート(補遺)

数日前に「マスクが目立つコンサート」などといささか呑気な記事を書いたら、状況が大きく動いている。25日の朝の通勤電車が何だがあまり混雑していないなと思っていたら、その後いろいろな集会がばたばたと中止とか延期になってきていて、わたくしがいっ…

マスクの目立つコンサート

一昨日、昨日とコンサートにいってきたのだが、客席の過半のひとがマスクをしていた。電車に乗っても同じような感じだから異とするには足りないのかもしれないが、舞台の上のオーケストラの団員、合唱団員、ソロの歌い手、指揮者はもちろん誰もマスクなどは…

岩田健太郎教授

岩田氏の名前を最初に知ったのがいつであったかよく覚えていないが、ディオバン事件のころではないかと思うので、もう10年以上も前のことである。最初の印象は何だか似たような名前の画家がいるなということであった。それと随分と若いひとだなあというこ…

三浦雅士「石坂洋次郎の逆襲」(1)

最近、書店で偶然みつけた本だが(本年1月28日に刊行)、とても面白かったので、しばらく、これについて、いくつか書いてみたいと思う。石坂洋二郎の小説群を「母系制」という視点から見直そうとしている本である。 しかし、困ったことが多くある。第一に…

本棚の整理(5) 丸谷才一

丸谷氏の本は随分と多く持っている。対談本までふくめると70冊以上あった。それは氏がわたくしより年上ではあっても(20歳くらい上)、まあ同時代の文学者としてほぼリアルタイムで本を読んできているからだと思う。 ご多聞に漏れず、最初に読んだのは「…

中村哲 澤池久枝「人は愛するに足り、真心は信ずるに足る アフガンとの約束」

人は愛するに足り、真心は信ずるに足る――アフガンとの約束作者:澤地 久枝,中村 哲出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2010/02/25メディア: 単行本 池澤夏樹氏の本で知った中村哲氏と澤地久枝氏の対談「人は愛するに足り、真心は信ずるに足る」を読んで、中村…

漢文の世界

最近、老眼がとみに進んで、細かい活字の本を読むのがつらくなり(一番つらいのは「今日の治療薬」といった細かい活字がぎっしり組まれたリファレンス本)、読書量が減ってきて本の感想だけでは間があきすぎるようになってきたので、すこし以前の話なども書…

いつのまにやら令和2年

自分は昭和の子であると自認しているせいか、平成という年号になじめないなと思っているうちに、いつの間にやら令和2年ということらしい。それで、平成19年などといわれても今から何年前かピンとこなくて、いちいち西暦に換算して確かめる始末である。早…

今週の「週刊新潮」の片山杜秀氏のコラム

今週号の「週刊新潮」の片山杜秀氏の「夏裘冬扇」というコラムに中曽根康弘を論じた文があって、海軍の主計少佐であったことが、その後の中曽根氏を決定したということがいわれているのだが、そこに「帝国陸軍はけっこう社会主義的だった」という文があって…

池澤夏樹氏の本から

今日、買ってきた池澤夏樹氏の「いつだって読むのは目の前の一冊なのだ」に中村哲さんについて論じている部分があった(p55~)。もっともその項は中村氏と似たような経歴のポール・ファーマーというアメリカの医者を紹介した「国境を越えた医者」(T・…

開高健 没後30年

今朝、新聞を見ていたら、本の宣伝の惹句に「開高健 没後30年」とあった。ベルリンの壁崩壊からも30年だそうであるから、氏は東側の崩壊を見ずに亡くなったわけである。 氏の一番の傑作は私見によれば「夏の闇」だと思う。今、本棚から取り出してきた「…

中村哲氏の訃報に接して

中村哲氏の訃報に接して、本棚から氏の「医者井戸を掘る アフガン旱魃との闘い」を取り出してきた。2001年10月刊行の本で、わたくしが持っているのは2001年12月の第3刷。 この本は2000年6月にアフガニスタンに久しぶりに戻った中村氏が赤…

本日の朝日新聞朝刊の記事

今朝の朝日新聞朝刊の「日曜に想う」という欄に編集委員の大野博人という方が「壁崩壊30年 マルクス未完の問い」という記事を書いている。そこでは、ベルリンにありマルクス・エンゲルス全集(MEGA)を刊行中の財団が紹介されている。このMEGAは1…

ベルリンの壁

ベルリンの壁が崩壊してから30年になるらしい。 わたくしが今72歳だから、42歳の時のことだったわけである。 ひとの物心がつくというのが何歳くらいであるのかわからないが、少しものを考えることをするようになるのが小学校上級か中学初年あたりであ…

ちくま学芸文庫版 加藤典洋「敗戦後論」の内田樹氏による解説

ちくま学芸文庫版の「敗戦後論」は2015年の刊行である。1997年に講談社より刊行された原著の出版から20年近くたっている。 本書には2005年刊のちくま文庫版「敗戦後論」に付された内田樹氏による「卑しい街の騎士」という解説と、2015年刊…

固定ド 移動ド

片山杜秀さんの「革命と戦争のクラシック音楽史」を読んでいたら、ベートーベンのピアノソナタ「悲愴」を論じている部分で以下のような記述があった。「とりあえず、第一楽章冒頭の一小節目を見てみましょう。出だしから強烈かつ単純の極みです。ハ短調の主…

小熊英二「日本社会のしくみ」(2)第一章日本社会の「三つの生き方」

第1章 日本社会の「三つの生き方」 最初に「不安な個人、立ちすくむ国家」という2017年に「経産省若手プロジェクト」が作成した文書が紹介されている。随分と評判になったものらしいが、わたくしは知らなかった。これを知っただけでも、本書を読んだ意…

小熊英二「日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学」(1)

600ページ近い新書としては異例の厚さの本で、正直、非常に読みにくい。「雇用・教育・福祉の歴史社会学」という副題がつけられているが、主に論じられるのは雇用の問題で、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といったいわゆる世界から見てかなり特異とさ…