中野五郎「祖国に還える」復刻版 DIRECT社 2023 1 25 刊

 昭和18年2月に刊行された本の復刻版である。著者は朝日新聞の記者で、大東亜戦争(と敢えて表示)開戦時アメリカにいて、アメリカで拘束されキャンプに抑留される。報道を担当するものは外交官などに準じる一種の特権を与えられるらしく、拘留といってもホテルに軟禁というかなりの厚遇である。
 その生活の中でアメリカの報道から得られる微かな情報から戦況を推測し、一喜一憂する様が描かれる。
 この本の面白いのは戦後に戦中を振り返ってかいた書いたものではなく、戦中にリアルタイムに書いたものであることで、当然?皇軍の快進撃を喜び、東京空襲の報に驚いている。
 これは日記であって新聞記事ではないから、軍部によって強制されて書いたなどといったものではなく、著者の本心そのままである。
 復刻版といっても原著は文語体であって、それを口語に直したものらしい。この本を読むひとがそれほど多いとは思えないから、口語に直すのではなく、そのまま文語体で出したほうがより原著の雰囲気が伝えられるのではないかと思う。「祖国に還える」というタイトルだが、口語でも「祖国に還る」ではないだろうか? パソコンもそう変換する。
 この頃、記憶力がとみに低下し、この本にどこから辿り着いたか記憶にない? 新聞の書評? アマゾンの紹介?
開戦前夜。「もはや日米交渉の前途には希望の光が消え失せた。ただ奇跡のみが開戦時間を引き延ばすことができるかもしれない。・・すでに十一月二十六日のハル国務長官暴戻な対日回答通告によって、米国政府は日本の隠忍自重の平和的努力を蹂躙したのであった。」
 著者は友人の葬儀に参列中に日米開戦を知る。ラジオの放送は「日本軍は今朝、パールハーバーを爆撃し、さらにマニラを攻撃中である。」という。
 著者はマニラ攻撃は理解できたが、真珠湾攻撃は半信半疑である。
 「戦争というものは人間の喜怒哀楽を超越し厳然とした宇宙的意志であると考えた。」「全亜細亜民族は、大同団結して覚醒するであろう。英米帝国主義の撃滅と亜細亜追放のために。」・・・
 朝日新聞は少なくとも著者は、帝国の軍部から強制されて戦意高揚に努めたのではなく心底、大日本帝国の勝利、全亜細亜民族の大同団結と覚醒を祈念している。このあたり朝日新聞社史などではどのように扱われているのだろうか?