2017-01-01から1年間の記事一覧

2017年

何かを読んでいて、今年がロシア革命から100なのだという指摘があって、はじめてそのことにきがついた。それほどそのことに触れる言論がすくなかったということなのであろう。 わたくしは1947年生まれであるからロシア革命から30年で生まれているわ…

養老孟司「遺言。」(2)

4章は「乱暴なものいいはなぜ増えるのか」というタイトルであるが、これは最近の日本人は言葉遣いが乱暴になったといったことを論じているのではなく、「ものごとを単純にいうためには、乱暴にいうしかないといったをいっている。ちょっとミスリーディング…

養老孟司「遺言。」(1)

新潮新書 2017年11月 養老さんの本は一時は随分と読んだものだった。今本棚を見てみたら対談本などを除いても40冊以上はありそうである。「バカの壁」以降はあまり読まなくなっていたが、それは「バカの壁」がベストセラーになって、それ以降、氏の…

篠沢秀夫さん

篠沢秀夫さんが亡くなられたらしい。 文学者としての篠沢さんのことを知ったのは、開高健・谷沢永一・向井敏の鼎談「書斎のポ・ト・フ」によってだった。もちろん、クイズ・ダービーの篠沢教授は知っていたが。そこで氏の「篠沢フランス文学講義」(全2冊)…

山口真由「リベラルという病」

新潮新書 2017年8月 このようなタイトルではあるが、実際には「アメリカにおけるリベラル」を論じたもので、ヨーロッパにおけるリベラルについては一切言及されない。そして日本のリベラルについても、ほとんど論じられない。 何よりもわたくしが奇異に…

大岡信「うたげと弧心」

うたげと孤心 (岩波文庫)作者: 大岡信出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2017/09/16メディア: 文庫この商品を含むブログ (1件) を見る 「安東次男氏や大岡信氏がこの何年間かに書くやうになつたことによつて」と『覚書』の今月の分で吉田健一は言ふ、「詩の…

半藤一利 阿川佐和子「昭和の男」

昭和の男作者: 半藤一利,阿川佐和子出版社/メーカー: 東京書籍発売日: 2017/09/02メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る 半藤一利が鈴木貫太郎、今村均、松本清張、半藤末松、阿川阿佐和子がW・M・ヴォーリズ、植木等、小倉昌男、阿川弘之を…

文藝春秋special「世界近現代史入門」

文藝春秋SPECIAL 2017年秋号 (学校では学べない世界近現代史入門)出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2017/08/26メディア: 雑誌この商品を含むブログ (2件) を見る 本ではなく雑誌だが・・。 いろんなひとが歴史についていろいろなことを書いていて面白そうだ…

J・イスラエル「精神の革命 急進派啓蒙と近代民主主義の知的起源」  佐藤優「学生を戦地に送るには 田辺元「悪魔の京大講義」を読む」

精神の革命――急進的啓蒙と近代民主主義の知的起源作者: ジョナサン・イスラエル,森村敏己出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2017/07/11メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 若いころ、啓蒙思想というのはもうすでに知識を得た人間がまだ知識を持っ…

[今日入手した本」 北田暁大 栗原裕一郎 後藤和智「現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史」

現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史 (イースト新書)作者: 北田暁大,栗原裕一郎,後藤和智出版社/メーカー: イースト・プレス発売日: 2017/06/10メディア: 新書この商品を含むブログ (14件) を見る 本屋さんでこの本をパラパラとみていて買ってみる気にな…

 橋本治「知性の顚覆」(5)

第3章は「不機嫌な頭脳」と題されている。 橋本氏は、自分には上昇志向がないという。それは「東京生まれの東京育ち」であり、特に貧しくはない家庭に育ったからであるという。 東京の山の手は近代日本の中核となるような中流階級の本拠地であり、近代市民…

 福田逸「父・福田恆存」

父・福田恆存作者: 福田逸出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2017/07/28メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る この本を買ってきたのは、わたくしが最初に決定的な影響を受けた文筆家が福田恆存であること、本屋で目次をみたら「鉢の木会」につ…

 渡部昇一氏の本

この前のエントリーで在野の知識人の一人として今年の四月になくなった渡部昇一氏にも言及して、そういえば氏の本もかなり読んでいるなあとあらためて思い出した。 知的生活の方法 (講談社現代新書)作者: 渡部昇一出版社/メーカー: 講談社発売日: 1976/04/23…

 橋本治「知性の顚覆」(4)

「近代の顚覆」の第2章は「大学を考える」というタイトルである。ではあるが、大学一般が論じられるのではなく、橋本氏の経験した「大学闘争」についての議論が終始展開される。ところでそれについて氏は「私自身はそれがどういうものか分からなかったので…

坂本忠雄「小林秀雄と河上徹太郎」 神林尋史「屈託という思想 小林秀雄と井伏鱒二」 下條信輔「ブラックボックス化する現代」

小林秀雄と河上徹太郎作者: 坂本忠雄出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会発売日: 2017/04/06メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る 朝日新聞の読書欄で紹介されていた。著者は「新潮」の編集長をつとめた方で、河上徹太郎や小林秀雄の担当だっ…

大岡信さんを送る会

本日、明治大学で行われた「大岡信さんを送る会」に参列してきた。妹の中高から親しくしている同級生が大岡さんの娘さんの御主人ということで妹が誘われ、それをきいて全然大岡信の詩を読んでいない妹に、これくらいは読んでおいたらと何冊かの詩集を見せた…

 橋本治「知性の顚覆」(3)

さて、橋本氏によれば「ヤンキー」とは「経験値だけで物事を判断する人達」で、それに対するものは「すべてを知識だけでジャッジする人」で「大学出」である。 わたしが若いころ、進歩的文化人という言葉があった。自分のことを進歩的文化人と自称するひとは…

 橋本治「知性の顚覆」(2)

今日、書店にいったら「石牟礼道子」という本があって、巻末の文献をみていたら、当然のことかもしれないけれども、渡辺京二さんの本がたくさん並んでいる。しかし、知らない本もたくさんあって、渡辺さんはまだ旺盛に本を出しているのだなと思い、書店めぐ…

 橋本治「知性の顚覆」(1)

今年1月で70歳となって、だんだん根気がなくなってきたというか、同じ本を延々と論じていく気力が乏しくなり、感想を書きかけで中断してしまっているものが増えてきている。 ある本を読んでいると何か以前読んだ本とのかかわりがあるように思えてきて興味…

鹿島茂「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」 加藤典洋「敗者の想像力」 山川方夫「春の華客 旅恋い」

エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層 (ベスト新書)作者: 鹿島茂出版社/メーカー: ベストセラーズ発売日: 2017/05/09メディア: 新書この商品を含むブログ (2件) を見る エマニュエル・トッドの名前をはじめて知ったのは、確か毎日新聞の読書欄の毎年…

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(8) 第7章「患者への話し方ー気遣いと治癒」

分娩、放射線検査(主としてMRI)、末期がん患者の三つの問題をあつかう。相互にまったく関係がないわけだが、それぞれのそばにいるひとと患者とのかかわりが問題にされる。妊婦さんの傍にいる助産師、検査をする患者の傍にいる放射線技師、末期がん患者…

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(7) 第6章「痛み − バーチャルリアリティと鎮痛剤」

本章は痛みの問題をあつかっている。 従来は末期がん患者の疼痛などに対して処方されていたオキシコンチンのようなエンドルフィン類似構造の合成化合物がどんどんと軽症の痛みに対しても処方されるようになってきており、耐性が生じて効果が薄れ、どんどんと…

菊澤研宗「組織の不条理 日本軍の失敗に学ぶ」

中公文庫 2017年3月組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫)作者: 菊澤研宗出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2017/03/22メディア: 文庫この商品を含むブログ (4件) を見る 山本七平氏の一連の陸軍ものを読んだことの影響だと思うが、日本の…

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(6) 第5章 催眠術−消化管をイメージで整える

本章は催眠術をあつかう。この辺りまで来ると、正統派の医療者は眉をひそめるのではないかと思う。ここで対象とする疾患は過敏性腸症候群(IBS Irritable Bowel Syndrome)。本書によれば、精神的なものとして片付けられがちだが、世界の人口の10〜15…

小玉武「開高健」

開高健: 生きた、書いた、ぶつかった! (単行本)作者: 小玉武出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2017/03/23メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る 著者はサントリーの宣伝部で開高健の後輩であった人らしい。それですでに「「洋酒天国」とその時…

大森望 豊崎由美「「村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!」

村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!作者: 大森望,豊崎由美出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2017/04/14メディア: Kindle版この商品を含むブログ (2件) を見る 著者の二人は「文学賞メッタ斬り!」というシリーズを共著として出しているかたで、わた…

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(5)第4章「疲労との闘い ー 脳の「調教」」

エヴェレストなどの高地への登山を例に疲労についての考察から本章ははじまる。あるいは長距離ランナーの疲労。 水分補給が大切であるとされていた長距離走で、水の摂取は往々にして水中毒をおこすという、従来からの見解とはことなる説も紹介されている。 …

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(4)第3章「パブロフの力 − 免疫系を手なずける方法」

心というものが免疫系を含めた基本的な生物学的機能に影響を及ぼすかということが論じられる。もし影響をおよぼすのであれば、移植患者、アレルギーや自己免疫疾患、さらにはがんの患者においても投薬量を大幅に減らせるのではないか? 条件反射(条件づけ)…

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(3)第2章「型破りな考え - 効力こそすべて」

カプチャックというひとのプラセボ研究が紹介される。自分でいうには60年代の無分別で学生時代から漢方を学びはじめ、東洋の宗教や哲学と毛沢東思想に傾倒し、アメリカで鍼治療院を開業。治療成績はとてもよかった。しかし患者があまりによくなっていくの…

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(2)第一章「偽薬−プラセーボが効く理由」

ある自閉症児が胃腸障害のために大腸の内視鏡検査を受けた。検査では特に有益な情報はえられなかったが、それにもかかわわらず症状は劇的な改善をみせ、胃腸症状が改善し、良眠できるようになり、意思の疎通にも改善がみられた。 両親はこの子の検査で用いら…