読書備忘録

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)最終回(「跋」)

最後にふされている「跋」は全体で7ページほどで、一部はこういう出版物の例にもれず、本書の出版にかかわった方への謝辞である。問題はそれ以外の部分で、現在の日本の人文学の現状(惨状?)の指摘と、それへの批判である。 2016年のトランプ当選&ブ…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(13) 第15章 はじまりの終わり 2018-2019.4

この期間は平成という時代への喪の作業の期間だったと与那覇氏はいう。 アベノミクスの成果であるとされた景気の拡大は平成18年(2006年)10月までで、以後は収縮へと転じる。わたくしは2000年頃までがバブルで、2003年くらいまではバブルの…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(12) 第13章 転向の季節 2013―2014 第14章 閉ざされる円環 2015―2017

与那覇氏は、平成29年からの第二次安倍政権の初期ほど、平成の達成が崩れていった時代はないが、それに気づいていない人が多いという。 「アベノミクス」は国民に好評だった。株価は高騰し、円安が進んだ。知識人もそれに同調していた。「リフレ政策」が受…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(11) 第11章 遅すぎた祝祭 2009―2010 第12章「近代」の秋 2011-12

自民党麻生政権は低支持率で鳩山政権に交代。その当初の高支持率はすぐに低下するが、菅直人への交代でふたたび上昇。しかしその消費税増税発言でまた低下。・・とにかく非自民政権は不安定だった。この一つの原因としてはこの政権を陰であやつった小沢一郎…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(9) 第9章 保守という気分 2005-2006 第10章 消えゆく中道 2007―2008

06年9月、第一次安倍内閣発足。その直前に8月15日に小泉首相が靖国参拝。 小泉政権下ではケインズからハイエクへの構造転換がおこなわれたと与那覇氏はいう。 このころから、ポスト冷戦で軽やかになったように見えていた論壇が「重くて暗い」論調へと…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(8) 第7章 コラージュの新世紀 2001―2002 第8章 進歩への退行 2003-2004

小沢一郎 小泉純一郎 橋本行革・・などが論じられるが、現実の政治には関心があまりないのでパス。このころ覚えているのは、テレビをみていた母親「何だか、小泉さん怒っているよ!」と教えてくれたことくらいである。竹中平蔵さんの写真もでているが、どう…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(8)第6章 身体への鬱転 1998-2000  第7章 コラージュの新世紀 2001-2002

何だかなかなか進まないので、今回は2章をまとめて5年分。 与那覇氏は、1999年は「言語から身体へ」の転換が動き出した年であったという。すなわち「何が語られているか?」から「誰が語っているか?」へ。この年都知事になった石原慎太郎と自死した江…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(7) 第5章 喪われた歴史 1996―1997

平成9年(1997年)は後世から「右傾化の原点」と記されるかもしれないと与那覇氏はいう。同年1月に西尾幹二&藤岡信勝の体制で「新しい歴史教科書をつくる会」が発足し、さらに5月には「日本会議」が結成されたからである。 わたくしはこの「新しい歴…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(6) 第4章 砕けゆく帝国 1995

最初に三島由紀夫の「太陽と鉄」からの美文の引用、次に「新世紀エヴァンゲリオン」への言及。 「太陽と鉄」は昭和43年(1968年)講談社刊。裏表紙には篠山紀信氏の撮った、褌一つで鉢巻きをし、日本刀を半ば抜刀してこちらを睨んでいる三島氏の写真。…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(5) 第3章 知られざるクーデター奇妙な主体化 1993-94

与那覇氏は1993年の細川連立政権発足が日本の政治の分水嶺だったことを否定するひとはいないだろうとするが、国民の政治改革熱が高まった要因はその5年前の1988年のリクルート事件だったという。 確かリクルート社というのは、1960年3月、 江副…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(4) 第二章 奇妙な主体化 1991-92(その2)p67から73

まず山本七平氏が論じられる。氏は1991年に69歳で亡くなっている。氏の本は随分と読んだが、一番印象に残っているのは初期の「ある異常体験者の偏見」「私の中の日本軍」といった日本陸軍の問題を扱った本である。なんでこれほどの不合理が一向に是正…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(3) 第二章 奇妙な主体化 1991-92(その1)p50から67

最初は、91年4月に柄谷行人と浅田彰が「批評空間」を創刊したこと、92年1月から漫画家小林よしのりが「SPA!」で「ゴーマニズム宣言」の連載を開始したことの指摘から始まる。 浅田氏は1983年「構造と力」でデビュウ、ニュー・アカデミズムのスタ…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(2) 第一章 崩壊というはじまり 1989-90

1989年 6月 ポーランド 自主管理労組「連帯」選挙で圧勝。 10月 ハンガリー 社会主義放棄 11月 チェコスロバキア ビロード革命 12月 米ソ 冷戦終結宣言 ルーマニア 独裁者チヤウチェスク処刑 上記で明らかなように、実質的にはこの年に社会主義は…

与那覇潤 「平成史 1989-2019 昨日の世界のすべて」(文藝春秋 2021)(1) 序 蒼々たる霧のなかで

この本は昨年入手したのだけど、読まずに置いてあった。今度、池田信夫氏との共著「長い江戸時代のおわり」を読んで、この本を思い出した。「平成史」というタイトルではあるが、平成の通史を述べるとともに、それに対して知識人がどのように反応したかの記…

池田信夫 与那覇潤 「長い江戸時代のおわり 「まぐれあたりの平和」を失う日本の未来」(6)(最終)第6章 提言 日本の未来も「長期楽観」で (ビジネス社 2022年8月)

池田:日本学術会議が掲げてきた「大学は軍事研究禁止」の中心は東大。 ウクライナ戦争で憲法学者も出る幕がなくなった。 英語では「平和主義」とは「戦わないで降伏する」という意味。かつて森嶋通夫氏が唱えたことがある。相手にされなかったが。 与那覇:…

池田信夫 与那覇潤 「長い江戸時代のおわり 「まぐれあたりの平和」を失う日本の未来」(5) 中国―膨張する「ユーラシア」とどう向き合うか(ビジネス社 2022年8月)

与那覇氏の「中国化する日本」については、ここで以前かなり長い感想を書いていたがあまり覚えていなかった。後期高齢者になるというのは本当に困ったものである。 「中国化する日本」は氏が「大学院で東洋史を齧れば誰でも知っている話」という「宋朝以降の…

池田信夫 与那覇潤 「長い江戸時代のおわり 「まぐれあたりの平和」を失う日本の未来」(4) 環境―「エコ社会主義」に未来はあるか(ビジネス社 2022年8月)

池田;ウクライナ戦争は長期的にはエネルギー政策に大きな影響を与えると思われる。欧州の電力はロシアの天然ガスへの依存を強めてきていたので、プーチンは欧州は強く出られないと踏んでいた可能性がある。今度の戦争で欧州は脱原発や脱炭素化を維持できな…

池田信夫 与那覇潤 「長い江戸時代のおわり 「まぐれあたりの平和」を失う日本の未(3) 経済―「円安・インフレ」で暮らしはどうなるのか」(ビジネス社 2022年8月)

与那覇:岸田氏が宰相就任時「新自由主義との決別」といったのはびっくりした。 池田;7年半も続いた第二次安倍政権(2012-2020)は「新自由主義」ではない。 与那覇:「アベノミクスの三本の矢」とは、1)リフレの理論によった金融政策。2)財…

池田信夫 与那覇潤 「長い江戸時代のおわり 「まぐれあたりの平和」を失う日本の未来」(2) 「自民党一強」はいつまで続くか (ビジネス社 2022年8月)

21年の選挙で立憲民主党が惨敗した。岸田氏は往年の「宏池会」よりは大分右であり、 氏は2015年の安保法制問題で外相として集団的自衛権の行使を容認した。当時の安倍首相は自民内でも傍流で、平成の半ばまでは極右の変な政治家という扱いだった。(池…

池田信夫 与那覇潤 「長い江戸時代のおわり 「まぐれあたりの平和」を失う日本の未来」(1) (ビジネス社 2022年8月)

与那覇氏の本は以前「中国化する日本」を読んだことがあるが、いま一つ論旨が掴めない本だった。池田氏の名前はどこかできいたことがあるなと思ったが、「アゴラ」というネット上でいろいろなことを論ずる場を主宰している方だった。 割合最近ここでとりあげ…

関川夏央「ドキュメント よい病院とはなにか 病むことと老いること」(小学館 1992年 講談社文庫 1995)

このところ、緩和医療やホスピスに従事する医師の著作をとりあげ、少し辛口なことや悪口?のようなことを書いた。そうしているうちに、関川さんの「よい病院とはなにか」にも緩和医療をしている病院を取り上げたところがあったことを思い出した。 この「よい…

(池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (7 終り)

この3冊本の最後は副題が「理想なき左派の混迷 1972-2022」である。 「はじめに」で池上氏は、この頃ベトナム戦争でアメリカは苦戦し、世界各地でベトナム戦争反対の運動が燃え盛っていた。これを人によっては「革命の日」が近いと受け取ったかも…

(池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (6)

p211から「過激化する新左翼」の章になる。 p223に佐藤氏が「新左翼の活動が一線を越えた、ある意味で荒唐無稽とも言える先鋭化をしていった」のは「京大全共闘の滝田修の思想にあったと考える」としている。「滝田は、革命のためには既存党派とは別…

池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (5)

「激動」p121から東大闘争が論じられていく。1月10日に「東大七学部学生集会が開かれ、大学側と学生側の間で「確認書」がとりかわされ各学部のストは次々に解除されていった。大部分の学生たちは授業が半年以上ないという事態にほとほと嫌気がさして…

池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (4)

「激動」p112で池上氏はいう。「大学自治会という場はみんなの大衆組織ですから、ここで多数決をとり賛成多数が得られれば学生ストライキを打つことも可能です。しかし同じストでもバリケードでキャンパスを封鎖し、建物を封鎖し、建物を占拠するような…

河野博臣 「幸福な最期 ホスピス医のカルテから」(講談社 2000年)

もう20年以上前の本であるが、最近、山崎章郎氏の「ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み」を読んで本書を思い出した。山崎氏は緩和ケア医であり、河野氏はホスピス医である。そして両書ともに著者が癌に罹患した体験記でもある。 ホ…

池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (3)

10年前の1951年に米国との間に締結された旧日米安保条約が改定の時期を迎え、時の宰相岸信介は旧条約の不平等部分の改定をすすめようとしていた。しかし、社会党が安保改定は米軍の恒久的な日本駐留を許すものであり、台湾や朝鮮の有事に日本は戦争に…

池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (2)

さて、佐藤氏は現在われわれが直面している格差や貧困などの問題の多くは左翼が掲げてきた問題そのものである、という。そうであるとすると「左翼の思考」をとりもどさなければならないのだ、と。 その問題に60年以降は、旧来の社会党、共産党に加えて「新…

I池上彰 佐藤優 「激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」 「漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972―2022」 講談社現代新書(2022) (1)

なんでこの本を読んでみようと思ったのかというと、わたくしが悪名高い全共闘世代の一員だからである。60年安保が麻布中学2年、1968年が東大医学部1年。 60年安保の時のことで記憶にあるのは、ラジオ(短波?)で国会乱入の現場からアナウンサーが…

バーバラ・ステーィリンク「イエスのミステリー 死海文書で謎を解く」

この「イエスのミステリー 死海文書で謎を解く」(NHK出版 1993)は橋本治氏の「宗教なんかこわくない!」(1995年 マドラ出版 のち ちくま文庫)を読んだときに知ったのだが、とてもわたくしには歯が立たない本と思ったので読まなかった。なにしろ…