2016-01-01から1年間の記事一覧

今年一年

ここではあまりプライヴェートなことは書かないようにしているが、本年は95歳になる母の介護の問題が表面化してきて、また身内で心臓弁膜症で手術するものがでたりで、例年とは少し違う一年になった。その他にもいろいろあるのだが、いずれにしても必ずし…

西内啓「統計学が日本を救う」(4)

第4章「経済成長を実現するために今できること」 最終章である本章では、話題が一般化されて、経済成長の問題が論じられる。 著者はいう。まだまだお金で解決できる不幸がたくさんある。もしもっと政府が潤沢にお金が使えるならば、もっと不幸を減らせるは…

西内啓「統計学が日本を救う」(3)

第3章「医療を受ける患者とコストを負担する私たち」 平成25年度の医療費は40兆円を超え、その過半が65歳以上の高齢者で使われ、75歳以上の後期高齢者で1/3以上が使われていることが示され、高齢者の人数が多いというだけでなく、一人ひとりの医…

西内啓「統計学が日本を救う」(2)

以下、第二章「貧困との戦いとしての社会保障論」を見る。わたくしにはこの本では本章が一番面白く、教えられるところも多かった。特に幼児教育の重要性ということについてはじめて知るところがあり勉強した。 本書が立つ前提は、「今の時点で不経済な財政で…

西内啓「統計学が日本を救う」(1)

中公新書ラクレ 2016年 11月 西内氏の本は以前、「統計学が最強の学問である」が評判になったときに読んだが、あまりぴんとこなかった。基本的には、こちらの数学の基礎力が足りないためであると思うが、もともと統計学というものについてなんとなく信…

里見清一「医学の勝利が国家を滅ぼす」

新潮新書 2016年11月 これは昨年の「新潮45」11月号に書かれた「医学の勝利が国家を滅ぼす」を中心に、そこでの論旨を展開したものである。この「新潮45」11月号の論に関しては、すでに昨年10月21日のブログで感想を書いている。 そこでの…

虫明亜呂無「女の足指と電話機」

女の足指と電話機 (中公文庫)作者: 虫明亜呂無出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2016/11/18メディア: 文庫この商品を含むブログ (1件) を見る 虫明亜呂無という名前は知っていたが読むのは初めて。91年になくなった氏の文章を雑誌などでおそらく読ん…

雑感2

ネットで記事を見ていたら、ニューヨーク・タイムズが、米大統領選の結果を受けて、「選挙結果は劇的で予想外だった。トランプ氏が全く型破りだったため、我々メディアは彼に対する有権者の支持を過小評価したのか。なぜこのような結果となったのか」などと…

雑感

しばらく前のイギリスのEU離脱、最近の米国の大統領選挙などを見ると、知識人というかエリートと呼ばれているような人々の信用が地に落ちてきているように感じる。それと同時に、なんとなく社会を指導するひとと見られ、あるいは自分でもそう思っていたひ…

辻原登「籠の鸚鵡」

新潮社 2016年9月 辻原氏は19世紀の発明である小説を信じているひとなのだと思う。19世紀の小説は西洋が発明した個人とかかわるもので、市井の平凡の人間のなかにも神話の英雄に勝るとも劣らないドラマがあるのだという信念に基づく。ところが20…

大澤真幸「日本史のなぞ」

朝日新書 2016年10月 日本は外圧によって変わることはあるが、内発的に変わることはきわめておきにくい国である。したがって革命とみなされる社会変動はおきにくく、それが日本の歴史の特徴であるのだが、ただ一回、日本の歴史でうまくいった革命があ…

辻原登「籠の鸚鵡」

籠の鸚鵡作者: 辻原登出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2016/09/30メディア: 単行本この商品を含むブログ (9件) を見る 今朝の毎日新聞の書評欄で三浦雅士氏が絶賛していた。 辻原氏のものは以前「東京大学で世界文学を学ぶ」だったかを読んだことがあるが、…

M・リドレー「進化は万能である]

進化は万能である:人類・テクノロジー・宇宙の未来作者: マット・リドレー,大田直子,鍛原多惠子,柴田裕之,吉田三知世出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2016/09/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (5件) を見る リドレーの本は、以前に「やわらかな遺…

赤坂真理「愛と暴力の戦後とその後」

愛と暴力の戦後とその後 (講談社現代新書)作者: 赤坂真理出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/05/16メディア: 新書この商品を含むブログ (28件) を見る 赤坂さんの名前は以前から知っていたのだが、何となく自分とは波長が合わない人だろうなと敬遠していた…

E・トッド「グローバリズム以後」

グローバリズム以後 アメリカ帝国の失墜と日本の運命 (朝日新書)作者: エマニュエル・トッド出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2016/10/13メディア: 新書この商品を含むブログ (7件) を見る これはトッドへの朝日新聞のインタビューを収めてもので、イン…

斎藤環「人間にとって健康とは何か」

PHP新書 2016年5月 斎藤氏はひきこもりに関する著作はいろいろと教えられるものがあるのだが、「戦闘美少女・・」という方面はいたって苦手で、ちょっと東浩紀氏に似た印象のかたである。こちらは精神分析が苦手でましてやラカンなどというのは敬し…

 昭和時代 1980年代

昭和時代 一九八〇年代作者: 読売新聞昭和時代プロジェクト出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2016/08/08メディア: 単行本この商品を含むブログを見る わたくしは昭和22年生まれなので、朝鮮戦争などはまったく記憶になく、社会的な事象で最初の記憶は…

Y・N・ハラリ「サピエンス全史」

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福作者: ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2016/09/08メディア: 単行本この商品を含むブログ (50件) を見る 最初のページに、ビッグ・バンで物理学がはじまり、原子と分子ができ…

日本文学全集29「近現代詩歌」 H・G・フランクファート「不平等論」

近現代詩歌 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集29)作者: 池澤夏樹,穂村弘,小澤實出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2016/09/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る 近現代の日本の詩を池澤夏樹氏が、短歌を穂村弘氏が、俳句を小澤實氏が選…

A・ガワンデ「死すべき定め」

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか作者: アトゥール・ガワンデ,原井宏明出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2016/06/25メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る 最近、いろいろなところでこの本のことを聞くので買ってきてみた。著者は甲…

鹿島茂「ドーダの人、小林秀雄」(その4)

第2章の「小林秀雄のフランス語と翻訳」では、小林秀雄のフランス語がいかにとんでもないものだったかということが縷々述べられている。 そういうことを初めて知ったのは開高健・谷沢永一・向井敏の鼎談「書斎のポ・ト・フ」を読んだときで、そこに篠沢秀夫…

「養老孟司の人生論」

養老孟司の人生論作者: 養老孟司出版社/メーカー: PHP研究所発売日: 2016/08/25メディア: 新書この商品を含むブログ (2件) を見る 実はこの本は2004年に出版されている「運のつき」を復刊、改題したもの。わたくしは「運のつき」をもっているから買う必…

鹿島茂「ドーダの人、小林秀雄」(その3)

すでに2回も論じているが、まだ「はじめに」までであって、本論は小林秀雄の文章は難解で理解不能ということろから始まる。そういう理解不能の文であるにもかかわらず、60年代・70年代の大学入試には小林秀雄の文章が頻繁に出題されたというのは何たる…

新井潤美「魅惑のヴィクトリア朝」

魅惑のヴィクトリア朝 アリスとホームズの英国文化 (NHK出版新書)作者: 新井潤美出版社/メーカー: NHK出版発売日: 2016/08/06メディア: 新書この商品を含むブログ (1件) を見る ヴィクトリア朝に興味があって、というかそれを批判したブルームズベリー・グル…

鹿島茂「ドーダの人、小林秀雄」(その2)

「ドーダ」というのはほぼ自己顕示といったことで、ただ一見はそうはみえない「謙遜を装う自己顕示」といった単純ではないタイプもあり、一筋縄ではいかないわけだが、鹿島氏は、パスカルの「パンセ」の「虚栄」でいわれていることは、「ドーダ」という言葉…

 渡辺京二「父母の記」

父母(ちちはは)の記: 私的昭和の面影作者: 渡辺京二出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2016/08/16メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る 渡辺氏の本は目についたら求めるようにしている。 なかに「吉本隆明さんのこと」という文があった。その一…

鹿島茂「ドーダの人、小林秀雄」(その1)

鹿島氏が、2008年から2015年まで「一冊の本」に連載した「ドーダの文学史」から小林秀雄についての章をまとめて一冊としたもの。 という由来のためか、かなり奇妙な構成の本である。普通、一冊の本というのは主題が提示され、それが展開され、最後に…

呉智英「危険な思想家」 メディアワークス 1998年

危険な思想家 (双葉文庫)作者: 呉智英出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2000/11メディア: 文庫購入: 6人 クリック: 86回この商品を含むブログ (62件) を見る 今、鹿島茂氏の「ドーダの人 小林秀雄」の感想を書こうかと考えている。ところで鹿島氏といえば吉本…

広岡裕児「EU騒乱」(完)

「終章」と「あとがき」 「終章」は、ユーロ圏での国際金融センターの一つであり、欧州司法裁判所、欧州投資銀行などがあるルクセンブルクへの訪問記と欧州への一般的な感慨が並列される構成。 2015年のパリ同時多発テロはイスラム国により周到に準備さ…

広岡裕児「EU騒乱」(6)

第5章「民主主義の出口」 いわゆる難民の問題を扱うとともに、欧州の現状とその打開法への広岡氏の展望を提示している。 2015年9月2日、トルコからギリシャに渡ろうとしていた難民のボートが転覆してライアン君という3歳の男の子が死んだ。この報道…