医療関係

医師の過労の問題

わたくしは内科医であったので、外科などのメッサ―・ザイテ(メスを持って手術をすることのある科)の医師に比べればずっと楽な勤務体系であったと思う。 週2回の一般外来、週1回の専門外来、4~5人の受け持ち入院患者というような体制で若い時代を過ごし…

高血糖性高浸透圧昏睡(非ケトン性高浸透圧性昏睡)

自分の病気という個人的なことをここに書いても仕方ないと思うが、糖尿病というのは頻度の高い病気であり、糖尿病でこのブログを見ている方もあるかも知れないので、何かの参考になるかと思い、今回の入院につき簡単に書いてみることにする。 糖尿病による昏…

コロナウイルス感染への日本の対応のやり方は世界でも特異なものなのだろうか?(3)

日本などアジア地域での新型コロナウイルスによる死亡率が、欧米地域などと比べて低いということがいわれている。これにも種々原因がいわれているが、いずれにしても、そのことを理由に、ウイルス感染に強権的に対応するか、なるべくゆるやかに対応するかを…

関川夏央「ドキュメント よい病院とはなにか 病むことと老いること」(小学館 1992年 講談社文庫 1995)

このところ、緩和医療やホスピスに従事する医師の著作をとりあげ、少し辛口なことや悪口?のようなことを書いた。そうしているうちに、関川さんの「よい病院とはなにか」にも緩和医療をしている病院を取り上げたところがあったことを思い出した。 この「よい…

胃癌リンパ節の拡大郭清

昨日、 近藤誠氏のことを書いていて、わたくしの現役のころさかんにいわれていた胃癌リンパ節の拡大郭清のことを思い出した。胃癌に限らず、腫瘍は周囲のリンパ節に転移をおこしていくわけで、もちろん周囲のリンパ節→もう少し遠いリンパ節→さらに遠いリンパ…

近藤誠さん

近藤誠さんがなくなったらしい。 近藤さんほど医者仲間から嫌われていた医師はあまりいないのではないかと思う。何だか変なことをいっている医者というのはいくらでもいるがが、近藤氏は過去にきわめてすぐれた業績のあるかたであり、おそらく日本の乳がん治…

客観的な医療

今、コロナウイルス感染の増大のため、疾患の重症度によって入院の適応を決めるという提案がなされている。 その適応を決めるのがパルスオキシメーターによる酸素飽和度の数字なのである。 医師であれば、この提案をみて唖然としないものはないだろう。 病気…

藤田紘一郎さん

藤田さんの「もしも、私が「がん」になったら。」(光文社新書 2021 4月)を読んでいたら、その藤田さんの訃報が報じられた。誤嚥性肺炎ということであった。誤嚥性肺炎は相当抵抗力・体力が落ちた高齢者の病気だから、「癌」とか何らかの基礎疾患があ…

コロナ・ワクチン接種の予診票の問題

今日の朝日新聞の3面に「接種 予診票の質問で混乱」という記事がでていた。この3面はすべてコロナ・ワクチン関連の記事でその中でも目立たない記事である。 この「接種 予診票の質問で混乱」というタイトルでは「あ、また混乱ね!」と受け取られるだけで、…

ワクチンの打ち手

最近、コロナワクチンの接種が少し進んできて、打ち手の問題がクローズアップされてきている、 要するに接種の筋肉注射は医療行為であるから、癌密に資格を有するひとのみが行えるものであるということで、医師・看護師などに限定されるという話である。 し…

コロナ・ワクチンの接種

医療者の特権で2週間前に第一回の接種を受け、来週に二回目を受ける予定である。 少なくとも、第一回目ではほとんど副作用はでなかった。(接種の翌日に接種部の軽い痛みがあった程度。) 接種の前に予診票にいろいろ書かねばならないところがあるのだが、…

公衆衛生 魔法の弾丸 新型コロナ

今年は新型コロナウイルスで明け暮れた一年だったけれども、これは公衆衛生の果たす役割を改めて見直すことになった一年でもあったのではないかと思う。 医療関係者には周知のことである1848年のゼンメルワイスによる手洗いの励行が産褥熱を劇的に減らし…

ノーベル医学生理学賞

報道によれば、今年のノーベル医学生理学賞がC型肝炎ウイルス研究関係の3氏に決定したようである。肝臓病を臨床の主たるフィールドとしてきた人間であるので少し感想など。 C型肝炎ウイルスが同定されたのは1989年のことで、それに成功したのはカイロ…

新型コロナウイルス感染 いくつか

新型コロナウイルス感染については、いまだによくわからないところが多い。 たとえば、まずマスク着用の有効性。岩田健太郎氏の「新型コロナウイルス感染の真実」では、自分が有症状(咳嗽があるなど)でなければ着用の意味はないとされていた。岩田氏は少な…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(6)

第5章「どんな感染症にも向き合える心構えとは」 この章には、よく理解できないところが多かった。 「感染症と向き合う上でまず大切になるのは、『安心を求めない』ということです」という主張からはじまる。「安全」というものは現実に存在する、しかし「…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(5)

第4章は「新型コロナウイルスで日本社会は変わるか」と題されているのだが、やや羊頭狗肉の趣がなきにしもあらずで、その点について岩田氏の明確な主張がなされているとは必ずしも思えず、論点の列挙におわっているような印象をうけた。 岩田氏は日本の感染…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(4)

第三章「ダイヤモンド・プリンセスで起こっていたこと」は約60ページあり、本書で一番多くの紙数が割かれており、岩田氏がもっともいいたかった部分であろうと思われる。そしてそこでいわれるダイヤモンド・プリンセス号でおきていたことには、日本が持つ…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(3)

第二章「あなたができる感染症対策のイロハ」 主な感染経路は二つ。飛沫感染と接触感染。飛沫感染は患者がくしゃみとか咳をしたときに生じる水しぶきによって生じる感染。飛距離は2mくらい。接触感染は、患者から飛んだ飛沫が何かの表面につき、そこに別の…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(2)

本書での岩田氏の関心はかならずしも狭義の新型コロナウイルス感染の問題にはなく、この感染流行から露呈されてくる日本の抱える様々問題を指摘することにもあるように思うが、まず巻頭におかれた狭義の医学的論議から見ていく。1)ウイルスとは何か?: 専…

岩田健太郎「新型コロナウイルスの真実」(1)

奥付では2020年4月20日刊になっているが、先々週から書店には並んでいたように思う。「あとがき」の日付は3月23日。出版を急いだため、口述したものから文章を起こしたものらしい。 「はじめに」、第一章「「コロナウイルス」って何ですか? 約35…

ある日の中小病院での外来

昨日は、雨風が強い荒天ということもあったのかもしれないが、外来の患者さんが異様に少なかった。一つには先週から容認された患者さんと電話で連絡して問題なければ患者さんが指定する薬局に処方箋をファックスで送るというやりかたへの対応として10人く…

救急医療とCOVID-19

この数日の新聞などの記事で、新型コロナウイルス感染のために救急医療が危機に瀕しているというようなことが多く書かれている。発熱などの患者が多くの救急病院で断られ、結果として最前線の一時救急を担当する救急センターにそういう患者さんが集中し、結…

マスクが目立つコンサート(補遺)

数日前に「マスクが目立つコンサート」などといささか呑気な記事を書いたら、状況が大きく動いている。25日の朝の通勤電車が何だがあまり混雑していないなと思っていたら、その後いろいろな集会がばたばたと中止とか延期になってきていて、わたくしがいっ…

マスクの目立つコンサート

一昨日、昨日とコンサートにいってきたのだが、客席の過半のひとがマスクをしていた。電車に乗っても同じような感じだから異とするには足りないのかもしれないが、舞台の上のオーケストラの団員、合唱団員、ソロの歌い手、指揮者はもちろん誰もマスクなどは…

岩田健太郎教授

岩田氏の名前を最初に知ったのがいつであったかよく覚えていないが、ディオバン事件のころではないかと思うので、もう10年以上も前のことである。最初の印象は何だか似たような名前の画家がいるなということであった。それと随分と若いひとだなあというこ…

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(8) 第7章「患者への話し方ー気遣いと治癒」

分娩、放射線検査(主としてMRI)、末期がん患者の三つの問題をあつかう。相互にまったく関係がないわけだが、それぞれのそばにいるひとと患者とのかかわりが問題にされる。妊婦さんの傍にいる助産師、検査をする患者の傍にいる放射線技師、末期がん患者…

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(7) 第6章「痛み − バーチャルリアリティと鎮痛剤」

本章は痛みの問題をあつかっている。 従来は末期がん患者の疼痛などに対して処方されていたオキシコンチンのようなエンドルフィン類似構造の合成化合物がどんどんと軽症の痛みに対しても処方されるようになってきており、耐性が生じて効果が薄れ、どんどんと…

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(6) 第5章 催眠術−消化管をイメージで整える

本章は催眠術をあつかう。この辺りまで来ると、正統派の医療者は眉をひそめるのではないかと思う。ここで対象とする疾患は過敏性腸症候群(IBS Irritable Bowel Syndrome)。本書によれば、精神的なものとして片付けられがちだが、世界の人口の10〜15…

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(5)第4章「疲労との闘い ー 脳の「調教」」

エヴェレストなどの高地への登山を例に疲労についての考察から本章ははじまる。あるいは長距離ランナーの疲労。 水分補給が大切であるとされていた長距離走で、水の摂取は往々にして水中毒をおこすという、従来からの見解とはことなる説も紹介されている。 …

J・マーチャント「「病は気から」を科学する」(4)第3章「パブロフの力 − 免疫系を手なずける方法」

心というものが免疫系を含めた基本的な生物学的機能に影響を及ぼすかということが論じられる。もし影響をおよぼすのであれば、移植患者、アレルギーや自己免疫疾患、さらにはがんの患者においても投薬量を大幅に減らせるのではないか? 条件反射(条件づけ)…