2002-01-01から1年間の記事一覧

村上龍「マクロからミクロへ」

[NHK出版 2002年10月10日初版] たぶんわたくしが村上龍のこういった経済・金融にかんする本を読むのは、わたくしが村上とある意味で立場を共有しているところがあるからなのであろう。つまり、経済の素人がそれでも経済について無知でいると何…

吉本隆明「ひきこもれ ひとりの時間をもつということ」

[大和書房 2002年12月10日初版] 聞き書きによる本。 ひきこもりはいけないという風潮への反対を表明したもの。 社交的なほうがいいのだという現在の価値観は間違っている、「分断されない、ひとまとまりの時間」をもつことがどんな仕事にも必要で…

Roald Dahl 「Matilda 」

[Penguin 1988年初版 ] これもダールの子供向けの本。 親にほとんど無視されているマチルダという天才少女が、図書館の司書のフェルプス夫人、学校の担任のハニー先生などに才能を見出され、とんでもない人間のトランチブル校長とマチルダの両親をやっつけ…

Roald Dahl 「Danny the champion of the world 」

[Penguin 1975年初版] これもダールの子供むけの本。 ダニーは父親と二人で暮らしている。大変いいお父さんなのだが、ただ一つ困った趣味があって、それが密猟なのである。いけすかない金持ちが管理している山の雉を密猟することが趣味なのである。密漁と…

Roald Dahl 「James and the Giant Peach」

[Penguin 1961] 英語の勉強で読んだダールの子供向けの本。ダールのものはこれ以外にも、数冊読んだが、今までのところではこれが一番本格的。 ダールの本が面白いのは、偽善的なところがないところであろうか? 悪いものは悪い一方で、それが死んだらみん…

竹森俊平「経済論争は甦る」

[東洋経済新報社 2002年10月24日初版] 日本の経済にかんする議論を、シュムペーターとフッシャーという二人の経済学者の学説の対立として整理したもの。 最近、これくらい面白い本を読んだことがない。こちらの現下の関心とぴったり一致するテーマ…

森永卓郎「シンプル人生の経済設計」

[中公新書ラクレ 2002年11月10日初版] 森永卓郎さんは、専門の経済分野に関してはなんだかいうことが変で、神がかってきているが(自分を日銀総裁にしてくれたら、明日にでも日本の景気を回復してみせるのだそうである。最近政府の中枢にはいった…

オスカー・ワイルド「まじめが肝心」西村孝次訳

[新潮文庫「サロメ・ウィンダミア卿夫人の扇」所収 昭和28年4月10日初版] なんでこんなものを読んだかというと、graded readers の中に、これの焼き直し簡約版があって、それを読んでも内容がよくわからなかったからである。あとのgraded readersは内…

酒井邦秀「快読100万語!ペーパーバックへの道 辞書なし、とばし読み英語講座」

[ちくま学芸文庫 2002年6月10日初版] またまたこんな本。「ビッグ・ファット・キャット」の路線であるが、さらに易しい本の多読をすすめている。 ネイティブ以外の英語勉強者のために、主としてイギリスの出版社、ペンギン文庫やオクスフォード、ケ…

野口悠紀雄「「超」文章法 伝えたいことをどう書くか」

[中公新書 2002年10月25日初版] 文学的な文章ではなく、論述文をどのように書くかについての本。木下是雄の「理科系の作文技術」などの系列に連なるものである。このごろの本は相当気楽に書き流しているように見える本が多いが、これは著者が気合…

内田樹「期間限定の思想 「おじさん」的思考2」

[晶文社 2002年11月10日初版] あとがきによれば、ウチダタツル君は今年いっぱいで著述業を廃業して学者生活にもどるのだそうである。 30代のばりばりのキャリア・ウーマンに心を病む人が増えている。人間が精神的に追い詰められるのは、「一人で…

末永徹「日本が栄えても、日本人は幸福にはなれない」

[ダイヤモンド社 2002年3月14日初版] 著者の「戦争と経済と幸福と」が面白かったので、読んでみた。 小泉首相は「米百表」の逸話によって構造改革の必要を説いた。これは戊辰戦争で荒廃した長岡藩に救援物資として送られた米百表についての話である…

箭内昇「メガバンクの誤算 銀行復活は可能か」

[2002年7月25日初版] 長銀の破綻前、長銀経営陣を批判して辞任した元長銀執行役員による日本の銀行論である。日本の銀行というのがもうどうしようもない状態に陥っているのだなということがよくわかる本である。 欧米では経済成長の低下とともに企…

末永徹「戦争と経済と幸福と」

[文藝春秋 2002年9月30日初版] まったく知らない人である。本屋で偶然みて買った。 こういう人がでてきたのだなあ、という感慨がおきる。 著者は1964年生まれ、というから40歳前後。大学をでてから外資系の証券会社でトレーダーを15年くら…

宮内義彦 田原総一郎「勝つ経済」

[PHP 2002年8月14日 初版] なんだかこういう本ばかり読んでいる気がするが・・・。 これまた、田原氏が聴き手。宮内氏はオリックスの社長。 宮内氏の後書きから。 「(抵抗勢力といわれる政治家の)思想と言えるものは旧来の農本主義、社会主義…

木村剛「日本資本主義の哲学 ニッポン・スタンダード」

[PHP 2002年9月9日初版] 田原氏との対談が面白かったので、読んでみることにした。 木村氏の論が迫力があるのは、実際に自分がベンチャー企業の社長であり、アメリカ資本のもとで働いた経験があるということに起因するようである。学者の発言では…

木村剛 田原総一朗 「退場宣告 居直り続ける経営者たちへ」

[光文社 2002年9月25日初版] 二人の対談だが、実際には、田原は聞き役で、木村剛の独演会。あらゆる点で飯田経夫の本と正反対の主張である。この対談でみる限り木村の説のほうがはるかに迫力があり、正論に思える。 日本の場合、一番の問題はルール…

飯田経夫「人間にとって経済とは何か」

PHP新書 2002年6月28日初版 飯田氏は大学の先生で、近代経済学者であるが、その飯田氏がもう経済学はいやになったということを書いた本である。 自分はこの世の中から貧乏をなくしたいと思って経済学者になった。以来半世紀、自分の目標は達成され…

勢古浩爾「「自分の力」を信じる思想」

PHP新書2001年9月28日初版 思想・生き方の一階部分・二階部分という発想が面白かったので、その関係のみ書いてみる。 われわれが通常生きている生活・感情の世界が一階部分である。われわれはそこのみで完全に生きていくことができる。われわれの…

村上龍「恋愛の格差」

青春出版社 2002年10月10日初版 「SAY」という女性向きの雑誌に連載した文章を集めたもの。こういうタイトルになっているが恋愛の話などあまりでてこなくて、構造改革とか日本の社会格差の拡大とかいうことがもっぱら書かれている。それがなぜ恋…

渡部昇一「ハイエク マルクス主義を殺した哲人」

PHP研究所 1999年2月12日初版 渡部昇一が座長をつとめた「ハイエクを読む勉強会」での、ハイエク『隷属への道』への渡部の私見をまとめたもの。 その勉強会のメンバーに若手政治家、実業家、編集者にまじってキャリア官僚がはいっているのがご愛嬌…

木田元「マッハとニーチェ 世紀転換期思想史」

新書館 2002年2月5日初版 物理学者のマッハと哲学者ニーチェが、世紀末ウイーンの文学者、例えばホフマンスタール、あるいは「特性のない男」の、ムジール、さらにはフランスのヴァレリーなどに大きな影響をあたえたことを梃子に、マッハとニーチェの…

春日武彦「17歳という病 その鬱屈と精神病理」

文春新書 2002年8月20日初版 現在52〜53歳くらいの精神科の医者が書いた若者論であるが、若者は理解できないというトーンに貫かれた、そして現在の若者よりも、自分の若いときのことにページの多くを割いている変わった本である。 自分も若いとき…

村上春樹「海辺のカフカ」 

新潮社 2002年9月10日初版 「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」「ねじまき鳥クロニクル」の系列につらなるメタファーに充ちた長編小説。ギリシャ神話からUFOさらには生霊までなんでもありの世界をとにかく読ませてしまう作者の力量は大…

加藤典洋 橋爪大三郎 竹田青嗣 「天皇の戦争責任」

径書房 2000年11月5日初版 昭和天皇の戦争責任を巡る3者の鼎談。500ページを超える大著。加藤典洋が有責論、橋爪大三郎が無責論を主張し、竹田青嗣が行司兼進行係をつとめる形で進行する。 加藤、橋爪の議論は、竹田が終りのほうではからずも言っ…

岡本嗣郎「陛下をお救いなさいまし 河井道とボナー・フェラーズ」

集英社 2002年5月7日初版 新渡戸稲造と津田梅子の弟子であり、恵泉女学園を創始した女性である河井道と、マッカーサーの部下であり、アメリカの占領政策とくに天皇の処遇の方策について大きな影響をもった人物であるバナー・フェラーズについてのノン…

佐々木邦「心の歴史」

みすず書房 2002年7月24日初版 佐々木邦の名前をはじめて知ったのは、渡部昇一の何かの随筆でだったと思う。機会があったら読んでみたいと思っていたが、このたび、みすず書房の「大人の本棚」シリーズの一冊として、長編「心の歴史」が収載されたの…

ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本」 

岩波書店 2001年5月30日初版 占領時代の日本を論じた本。 連合国との戦争は3年8ケ月であるが、占領期間は6年と8ケ月におよぶ。占領期間は戦争期間のほぼ倍であり、日本のその後に多大な影響をおよぼした。 占領時代の前後のことを考えるためには…

ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本」

岩波書店 2001年5月30日初版 占領時代の日本を論じた本。 連合国との戦争は3年8ケ月であるが、占領期間は6年と8ケ月におよぶ。占領期間は戦争期間のほぼ倍であり、日本のその後に多大な影響をおよぼした。 占領時代の前後のことを考えるためには…

芝伸太郎「うつを生きる」

ちくま新書 2002年7月20日初版 日本に多いとされている「メランコリー親和型うつ病」について論じた本。 著者は、精神疾患は風土病の色彩をもつという。なぜなら、固有の文化・風土をぬきにした精神病理というのはありえないから。風土とは「人間の自…