2005-01-01から1年間の記事一覧

中島岳志「中村屋のボース インド独立運動と近代日本のアジア主義」

[白水社 2005年4月30日初版] これを読んでみようと思ったのは、養老孟司の「無思想の発見」で紹介されていて面白そうだったのと、大仏次郎論壇賞をとって話題になったからである。 それで読んでみての感想は、なんだかよくわからないな、というもので…

高橋源一郎 斉藤美奈子 「対談 文芸・評論」 

[日本一怖い! ブック・オブ・ザ・イヤー 2006」 ロッキング・オン] 高橋源一郎と斉藤美奈子が今年度の文芸について語り合った対談。編集部・高橋氏・斉藤氏がそれぞれ5冊づつとりあげていて、併せて15冊。そのうち、村上龍「半島を出よ」、橋本治「…

谷沢永一 「紙つぶて 自作自注最終版」

[文藝春秋 2005年12月5日初版] 谷沢永一の名前を初めて知ったのがいつのことかもう覚えていない。どこかで「谷沢永一に噛みつかれたらおしまい」という怖い書評家という風評をきいたのか、あるいは開高健のエッセイのどこかで読んだのか、あるいは開…

養老孟司 「司馬遼太郎さんの予言」

[文藝春秋2006年新年特別号」 この前にとりあげた養老氏の「無思想の発見」において、養老氏は司馬遼太郎の三島事件についての司馬氏の発言をとりあげて、「ここでは、思想はまったくの「誉め殺し」状態である」といっている。「思想はそれ自体として存…

養老孟司 「無思想の発見」

[ちくま新書 2005年12月10日初版] 養老孟司の書き下ろしである。最近、多く刊行される雑誌連載の単行本化とか、聞き書きではない。それだけ力が入っている。しかし何だか変である。不機嫌である。内容が分裂していて何がいいたいかよくわからない。…

山田風太郎 「妖異金瓶梅」

[廣済堂文庫 1996年初版 原作は1953年ごろから数年にわたり各雑誌に分載された短編をまとめたもの] 傑作である。 これを読んでみようと思ったのは、「ひろい世界のかたすみで」のなかの「不戦青年からむにゃむにゃ老人へ」で橋本治が激賞していたか…

村上春樹 「意味がなければスイングはない」

[文藝春秋 2005年11月25日初版] 村上春樹が「ステレオサウンド」誌に連載した音楽論、といってもほどんどが演奏家論である。10編のうちの3編がクラシックで、あとの7編がそれ以外であるが、わたくしはクラシック音楽以外の音楽にかんしてはほと…

山田風太郎 「幻燈辻馬車」

[河出文庫 1993年11月初版 原著1976年初版] 「警視庁草紙」が「オール読物」に連載されていた時は知らなかったが、この「幻燈辻馬車」が「週刊新潮」に連載されていた時には時々目を通していて、やたらと実在の人物がでてくる変な小説だなと思って…

山田風太郎 「警視庁草紙」

[ちくま文庫 1997年5月初版 原著1975年初版] 「日記」を読んでいて、読み返してみたくなった。実は「警視庁草紙」は読了した気でいたのだが、前巻の半分くらいまでしか読んでいなかった。読みきり短編の連作であるから、それでもいいのかもしれない…

河岡義裕 「インフルエンザ危機」

[集英社新書 2005年10月19日初版] こんな本を読んで勉強しているのが恥ずかしい。ようやく、なぜ鳥インフルエンザがこれだけ問題になっているのかの根幹のところがわかった。恥ずかしい。 昔、確か武者小路実篤の「愛と死」だかを読んでいてヒロイン…

内田樹「知に働けば蔵が建つ」

[文藝春秋 2005年11月25日初版] 読んでいて、自分の関心領域と重なるひとがたくさんでてきてちょっとうれしくなる本であった。 グレゴリー・ベイトソン(30歳ごろ熱中して読んだ)、マイケル・ポラーニー(栗本慎一郎さんがアクティブだったときに…

橋本治 「ひろい世界のかたすみで」

[マガジンハウス 2005年10月20日初版] 橋本治の雑文集である。自分でも「あとがき」に書いているように、「なんだ、このガチガチの内容は?」であり「なんだ、この一般性のなさは?」である。「国家」とはなにか?というとんでもない論文から、薩摩…

S・モーム 「お菓子と麦酒」

[新潮文庫 1959年] 山田風太郎の日記を読んでいたらモームの本をやたらと読んでいる記事が目立った。それでなんだか久しぶりにモームを読んでみたくなった。 小説というものはこういうものなのだ、とでもいうような小説である。これを読んでも別に何かを…

橋本治 「乱世を生きる 市場原理は嘘かもしれない」

[集英社新書 2005年11月22日初版] 橋本治が集英社新書に書くのは「「わからない」という方法」「上司は思いつきでものを言う」につき3冊目である。それらが三部作をなすのだそうである。前の二冊は相互にまったく関係のない本であると思っていたの…

山田風太郎 「戦中派復興日記 昭和26年 昭和27年」

[小学館 2005年10月10日初版] 「動乱日記」(昭和24・25年)に続く、山田風太郎6冊目の日記である。「動乱」で医学校に通いながら作家になってしまった山田風太郎は、ここではひとり立ちの作家として、書きまくり読みまくっている。たくさん読…

嵐山光三郎 「頬っぺた落とし う、うまい!」

[ちくま文庫2001年11月7日初版 原著は1998年10月初版] 前から知っていた本なのだが、タイトルがなんとなく品がない感じなので手にとっていなかった。今回何となく山田風太郎の本とともに購入。 一応小説であり、ストーリーがないこともないのだ…

浜六郎 「高血圧は薬で下げるな!」

[角川oneテーマ21 2005年9月10日初版] 著者の浜氏は医師だが薬の副作用について長年とりくんでいるひとで、つい最近もインフルエンザ治療薬であるタミフルの精神症状の問題をとりあげていた。 それでタイトル通りの本であるが、薬で下げるな!と…

岡田暁生 「西洋音楽史 「クラシック」の黄昏」

[中公新書 2005年10月25日初版] クラシック音楽は西洋音楽の歴史のごく一部である。西洋音楽は千年以上の歴史を持つが、クラシック音楽は18世紀から20世紀初頭までのたかだか200年の歴史を持つにすぎない。われわれが通常耳にしている音楽が…

草森紳一 「随筆 本が崩れる」

[文春新書 2005年10月20日初版] この人の本を読むのは初めて。自称、物書き。調べものをして書くらしく棲家は資料に使う本の山。本棚に収まりきらず、床に山積み。本当の山積みで雪国の道路のごとく、通路の両脇は本の断崖、本棚の本さえ見えないと…

内田樹 「街場のアメリカ論」

[NTT出版 2005年10月31日初版] 最近、こんな面白い本を読んだことがない。内田氏は本当に頭のいい人であるなあと思う。感嘆しきりである。かなり多くの部分を精神分析的な見方に負っており、精神分析的見方の切れ味というのを改めて認識させられ…

浅間里江子 「それでいいのか蕎麦打ち男」

[新潮社 2005年9月25日初版] まあ、どうということはない本なのであるが。団塊世代論である。わたくしも昭和22年生まれなので団塊の世代の一員ということになるらしい。 さて、表題のごとく団塊男は蕎麦を打つのだそうである。そして、会社をやめて…

井沢元彦 「ユダヤ・キリスト・イスラム集中講義」

[2004年11月30日初版] 同じ著者の「仏教・神道・儒教集中講義」が面白かったので読んでみたのだが、こちらの方が先に刊行されている。 ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の相互関係についての簡単な解説があったあと、それぞれの立場を代表する人間…

石原俊 「音楽がもっと楽しくなるオーディオ「粋道」入門」

河出書房新社 2005年10月20日初版] この前に取り上げた許氏の本が深刻野暮な本であるとしたら、こちらはいたって気軽な本である。副題になるような粋な本であるかどうかは微妙なのであるが。前にとりあげた同じ著者の「いい音が聴きたい」の続編であ…

許光俊 「クラシックを聴け! お気楽極楽入門書」

[青弓社 1998年9月30日初版] お気楽極楽なんて副題がついているがとんでもない話で、生真面目深刻である。その深刻趣味が鼻につく人も多い本だだろうと思う。 クラシック音楽は西欧文明のある時期に咲いた徒花のようなものであり、現在もうほとんど死…

内田樹 春日武彦 「健全な肉体に狂気は宿る −−生きづらさの正体

[角川Oneテーマ21 2005年8月10日 初版] 内田樹氏と精神科医である春日武彦氏の対談。内田氏の著書はここでもう何冊目であろうか? 春日氏の著書は前に「17歳の病」をとりあげたことがある。 対談ではあるが、内田氏は実によくしゃべる人で、7〜…

小谷野敦 斉藤貴男 栗原裕一郎 「禁煙ファシズムと戦う」

[ベスト新書 2005年10月1日 初版] この3氏が別々に「禁煙論」に対する反対を述べた論を収載し、それに小谷野氏と斉藤の対談を付し、最後に医学論文(もちろん、禁煙論の論拠を疑うもの)を一編付したものである。 小谷野氏の論の一部は以前の「素晴…

井沢元彦「仏教・神道・儒教集中講義」

[徳間書店 2005年6月30日初版] 題名の通りの本であるが、仏教についてはほぼ知っていることであり、あまり新しく得るところはなかった。 それで神道。神道こそ日本のイデオロギーであるというのが著者の立場であるが、まず国家神道は神道の歴史のなか…

川渕孝一 「日本の医療が危ない」

[ちくま新書 2005年9月10日初版] まったくの個人的関心から読んだ本。著者は医療経済学の専門家。 日本の医療が、WHOから保険システムの達成度で世界一であると認定されていることはよく知られているが、著者によればそれはマクロでみたときの話で…

P・ベナー「看護論 新訳版 初心者から達人へ」

[医学書院 2005年9月15日初版] ベナー「看護論」の改訳版である。最初の翻訳は1992年にでている。今回改訳版がでたのは、原著の改定版がでたからではない。推定するに最初の翻訳があまりにひどいものであったので抛っておけなくなったのであろう…

村上春樹 「東京奇譚集」

[新潮社 2005年9月18日初版] 村上春樹の最新短編集。奇譚集であり、偶然の暗合とか、虫の知らせとかいった超自然的なことをあつかっている。純文学ではできすぎの偶然で話をすすめるのを大衆小説的ときらう傾向がある。柴田翔が「されどわれらが日々…