2005-01-01から1年間の記事一覧

R・ダール「ぼくのつくった魔法のくすり」

[評論社 2005年4月30日初版] 最近、評論社から刊行されつつあるダールのシリーズは「チョコレート工場の秘密」「ガラスの大エレベーター」「こちらゆかいな窓ふき会社」と本書の4冊を読んだが、宮下嶺夫訳の本書が一番素直な翻訳である。前2著は柳…

保阪正康 「あの戦争は何だったのか 大人のための歴史教科書」

[新潮新書 2005年7月20日初版] 著者は「はじめに」で「太平洋戦争そのものは日本の国策を追う限り不可避なものだった」という。そして最終章で、それはなぜかといえば「明治期以降の日本はいったん“ガス抜き”が必要であったから」なのだという。明治…

許光俊 「世界最高のクラシック」「生きていくためのクラシック 「世界最高のクラシック」第Ⅱ章」

[光文社新書 2002年10月20日初版] [光文社新書 2003年10月20日初版] 「オレのクラシック」が面白かったので読んでみた。 なんで著者がクラシック音楽を聴くのかというと、「生きているのが退屈で、つまらない」からなのだそうである。「その…

許光俊「オレのクラシック」

[青弓社 2005年7月15日初版] この人の本ははじめて読むが、クラシック音楽について言いたいことを言っているので有名な人らしい。非常に古風なクラシック音楽観をもっている人である。その点では丸山真男などと同じなのだけれど、自分の音楽観がも…

R・ダール 柳瀬尚紀訳「チョコレート工場の秘密」

[2005年4月30日初版] 最近知ったのだがダールの子供向けの本の新しい(あるいは改訂版の)翻訳シリーズが今年春から刊行されつつあるらしい。その一冊。 「チョコレート工場の秘密」はダールの子供向けの本の代表作で田村隆一訳で以前でていたが、…

橋本治 「橋本治という行き方 WHAT A WAY TO GO!」

[朝日新聞社 2005年6月30日初版] 何という題名!ではあるが、読んでみれば納得で、確かに「橋本治という行き方」なのである。本当に WHAT A WAY TO GO! である。 幾つかのテーマを論じているが一番の骨格は教養論である。 橋本治は、自分は原稿を書く…

橋本治 「ああでもなくこうでもなく No95」

[広告批評2005年8月号 マドラ出版] 橋本治が延々「広告批評」に連載している「ああでもなくこうでもなく」の今月号の「セレブ」論が面白かったので少々感想を書いてみる。 セレブというのは日本語であると橋本治はいう。なぜそういう言葉が必要とされ…

鈴木淳史 「わたしの嫌いなクラシック」

[洋泉社新書y 2005年8月22日初版] 著者の鈴木氏はクラシック音楽愛好家なのではあるが、当然のこととして、あらゆるクラシックが好きというわけではない。この曲は嫌い、あの演奏家も嫌い、ということがある。それはなぜなのか、といったことを書い…

田原総一朗 「日本の戦後 下 定年を迎えた戦後民主主義」

[講談社 2005年7月19日初版] 2年ほど前に出た上巻についてきびしい感想を書いた記憶があるが、本書の感想もまた同様である。要するに著者の独自な意見が何もない。その時々においては時流の平均の立場にいて、しばらくしてそれが間違っていたと感じ…

青柳いづみこ 「ピイアニストが見たピアニスト 名演奏家の秘密とは」

[白水社 2005年6月20日初版] 自身ピアニストである青柳氏が、リヒテル、ミケランジェリ、アルゲリッチ、フランソワ、バルビゼ、ハイドシェックの6人のピアニストについて論じたものである。わたくしはバルビセというピアニストについてはしらず、フ…

竹村公太郎「土地の文明 地形とデータで日本の都市の謎を解く」

[PHP 2005年6月27日初版] 竹村氏の本を読むのは「日本文明の謎を解く」についで二冊目。これも前と同じに養老孟司氏の推薦。 建設省河川局長として日本のインフラ整備に携わってきたひと。養老氏もいっているように日本の環境破壊の推進者と非難さ…

ルブラン原作 南洋一郎 文「奇巌城」

[ポプラ社 2005年2月] 書店にこのポプラ社の本で乱歩の「少年探偵団」シリーズとルブラン「怪盗ルパン」シリーズが並んでおいてある。「少年探偵団」もシャーロック・ホームズも結構記憶に残っているのだが、ルパンものは読んだ記憶はあるが印象が薄い…

小谷野敦 「帰ってきたもてない男 女性嫌悪を超えて」

[ちくま新書 2005年7月10日初版] 小谷野氏が「もてない男」を上梓したのが1999年のはじめ。本書「帰ってきた・・」によれば、氏はその年の秋に結婚し、三年ほどで離婚したらしい。それでその多難な?人生経験を経て、「もてない男」に書いたこと…

岩井克人 「会社はだれのものか」

[平凡社 2005年6月24日初版] 以前この人の「会社はこれからどうなるのか」を読んで面白かったのでここでとりあげたことがあるが、最近この「会社はだれのものか」が本屋に並んでいて、書名が似ていたので前の本の再版されたのかと勘違いしていた。本…

倉橋由美子 「偏愛文学館」

[講談社 2005年7月7日初版] もともと出版が企画されていたものなのだろうか? それとも倉橋氏の死に便乗したものなのだろうか? 文字通り倉橋氏が偏愛する文学作品につき語ったもの。38冊の本が取りあげられているが、そのうち直接、吉田健一と関係…

P・G・ウッドハウス 「よしきた、ジーヴス」「ジーヴズの事件簿」

[国書刊行会 2005年6月15日初版] [文藝春秋 2005年5月30日初版] 「よしきた、ジーヴス」は、国書刊行会から刊行されている「ウッドハウス・コレクション」の第2巻で、3月くらいに取り上げた「比類なきジーヴス」の続巻である。「比類なき」…

クルト・マズア指揮 ショスタコーヴィッチ「交響曲第五番」

[LPOー0001 輸入版] たまには本の感想以外も。 昨年初旬、マズアがロンドン交響楽団を指揮した演奏会のライブ録音である。 偶然にCD店でみつけたものであるが、「最終楽章の異様な遅さ!」というような宣伝文句につられて買ってきた。 ショスタコー…

高田里恵子 「グロテスクな教養」

ちくま新書 2005年6月10日初版] 高田氏の本は前に「文学部をめぐる病い」をとりあげたことがあり、何かいやな感じのする後味の悪い本というような感想を述べたような気がするが、本書もまた同様の印象をあたえる本である。何より困ったことに著者がそ…

加藤典洋 「僕が批評家になったわけ」

[岩波書店 2005年5月20日] 批評ということについて、思いついたことを並列的にならべたような本。まあ徒然草スタイルというのだろうか。批評というテーマをめぐって起承転結的に一貫して論じた本ではない。 さて、加藤によればまず批評は学問ではない…

倉橋由美子追悼

倉橋由美子が死んだ。 新聞によれば死因は拡張型心筋症とあった。 大分前のエッセイに、ひどい耳鳴りがあってとても物書きができる状態ではないと書いていたし、そのまた前のエッセイに、腸の検査をしたら医者にあなたこれでよく生きてますねといわれたとか…

橘木俊詔 「企業福祉の終焉 格差の時代にどう対応すべきか」

[中公新書 2005年4月25日 初版] こういう本を読んでいるのは、わたくしが企業福祉の当事者である、すなわち、ある企業の病院に勤務している、という理由による。他人事のようないいかたであるが、わたくし自身そういう立場にいながら企業が福祉の一端…

R・ドーア 「働くということ グローバル化と労働の新しい意味」

[中公新書 2005年4月25日初版] 著者ドーアはイギリス生まれの社会学者。しばしば来日し、日本の状況についてもくわしい人らしい。本書は「ますますグローバル化する世界における労働の新しい形、新しい意味」と題して2003年にIOCに提出された…

江戸川乱歩 「青銅の魔人 少年探偵 五」

[ポプラ社2005年2月初版] 江戸川乱歩の少年探偵団ものは、わたしがはじめて熱中した書物である。小学校高学年に「少年探偵団」もの、中学校で「風と共に去りぬ」、高校で太宰治「津軽」、大学教養学部で吉行淳之介、医学部にきて福田恆在、それを経由し…

藤沢秀行 「野垂れ死に」

[新潮選書 2005年4月20日初版] わたくしは囲碁にはまったく関心がないが、藤沢秀行がとんでもないひとであるという噂はどこからともなくきいていた。これを読んだのは新聞で本書が紹介されていて、藤沢秀行が三つの悪性腫瘍の自然退縮を経験したと読…

ニーチェ 「キリスト教は邪教です! 適菜収訳 現代語訳『アンチクリスト』

[講談社+α新書 2005年4月20日初版] ニーチェに「キリスト教は邪教です!」なんて著書があるかということであるが、副題にあるように『アンチクリスト』の翻訳である。現代語訳というのがミソで、通常の翻訳ではない。シドニー・シャルダンなどの翻訳…

石原俊 「いい音が聴きたい 実用以上マニア未満のオーディオ入門」

[岩波アクティブ新書 2002年5月7日 初版] しばらく前にiPod miniを買ったので、久しく縁が遠くなっていた音楽と接する機会が増えてきた。iPod からイヤフォンで聴く音は予想以上のいい音で、音自体に不満はないのだが、イヤフォンで聴くと音楽が頭の中…

橋本治 「貧乏は正しい ぼくらの最終戦争」

[小学館文庫 1998年4月刊 元の本はまどら出版より1995年刊行] それで前項から続いて橋本治「貧乏は正しい」シリーズである。 最終戦争とはハルマゲドンであって、この巻は宗教を扱っているのであるが、ここで橋本がいっていることは、人はどのよう…

小谷野敦「退屈論」

2002年6月30日初版 ご存知「もてない男」の小谷野氏の退屈論である。というわけで、「もてる男」の話からはじまる。 19世紀の特異なユートピア思想家フーリエの理想社会から話ははじまる。かれの理想としたのは「すべての人間がすべての相手とセッ…

橋本治 「貧乏は正しい! 5 ぼくらの未来計画」

[小学館文庫 1996年5月初版] イーグルトンの社会主義についての議論を読んでいたら、橋本治の「貧乏は正しい!」シリーズを読み返してみたくなった。 「17歳のための超絶社会主義読本」と副題された「貧乏は正しい!」シリーズは、「ヤングサンデー」…

T・イーグルトン「ポスト・モダニズムの幻想」

[大月書店 1998年5月22日 初版] これを読んでみようという気になったのは、最近刊行された同じ著者の「アフター・セオリー ポスト・モダニズムを超えて」(筑摩書房 2005年3月25日初版)を読んで、イーグルトンという人に興味をもったからであ…