町田康 「口訳 古事記」

 この本は新聞の広告で知った。今日届いたばかりなのでまだ最初の「神xyの物語」しか読んでいないが面白い。
 町田氏の古典口語訳?は池澤夏樹個人編集の「日本文学全集」(河出書房新社)の「宇治拾遺物語」の訳がとても面白かった。それでこれも面白いだろうと思い取り寄せてみた。
 その「宇治拾遺」の巻頭、「これはけっこう前のことだが、道命というお坊さんがいた。藤原道綱という高位の貴族の息子で、業界でよいポジションについていた。そのうえ、声がよく、この人が経を読むと、実にありがたく素晴らしい感じで響いた。というと、ああそうなの。よかったじゃん、やったじゃん、程度に思うかもしれないが、そんなものではなかった。じゃあどんなものかというと、それは神韻縹緲というのだろうか、もう口では言えないくらいに素晴らしく、それを聴いた人間は、この世にいながら極楽浄土にいるような心持になり、恍惚としてエクスタシーにいたるご婦人も少なくなかった。
 そんなことだから道命は貴族社会のご婦人方の間ではスターで、道命の周囲には道命と一夜の契りを結びたいというご婦人が常時参集して、手紙やなんかを送りまくっていた。・・」
 ということで「口訳 古事記」も面白いだろうこと請け合いである。しかし「古事記」というのはどうもとても長いお話らしく、この口訳も五百ページ近くもあり、2400円もするのが玉に瑕であるが・・。
講談社 2023年4月24日刊)