橋本治の恵み

橋本治「父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない」(2)

わたくしはE・トッドの著作は「帝国以後」しか読んでいないので、以下、鹿島茂氏のまとめにしたがう。 トッドは世界の家族を4類型に分ける。 1)絶対核家族(イングランド・アメリカ型):結婚した男子は親と同居しない。別居して別の核家族をつくる。親…

橋本治「父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない」(1)

橋本氏が「小説トリッパー」に2017年秋号から2018年冬季号まで、連載したものの書籍化。おそらく、この後も書き継ぐつもりでいたものが、氏の死により中断されたもののように思う(161ページに「六月の末に癌の摘出手術を受けて入院中とある)。…

橋本治さん追悼

橋本治さんが先月29日に亡くなったらしい。新聞をとっていないので今日まで知らなかった。ネットでも、記事の片隅にでもでていたのだろうか? 近年、血管の炎症性疾患に罹病していたときいているので、それによるものなのだろうか? 氏は1948年3月生…

 橋本治「知性の顚覆」(5)

第3章は「不機嫌な頭脳」と題されている。 橋本氏は、自分には上昇志向がないという。それは「東京生まれの東京育ち」であり、特に貧しくはない家庭に育ったからであるという。 東京の山の手は近代日本の中核となるような中流階級の本拠地であり、近代市民…

 橋本治「知性の顚覆」(4)

「近代の顚覆」の第2章は「大学を考える」というタイトルである。ではあるが、大学一般が論じられるのではなく、橋本氏の経験した「大学闘争」についての議論が終始展開される。ところでそれについて氏は「私自身はそれがどういうものか分からなかったので…

 橋本治「知性の顚覆」(3)

さて、橋本氏によれば「ヤンキー」とは「経験値だけで物事を判断する人達」で、それに対するものは「すべてを知識だけでジャッジする人」で「大学出」である。 わたしが若いころ、進歩的文化人という言葉があった。自分のことを進歩的文化人と自称するひとは…

 橋本治「知性の顚覆」(2)

今日、書店にいったら「石牟礼道子」という本があって、巻末の文献をみていたら、当然のことかもしれないけれども、渡辺京二さんの本がたくさん並んでいる。しかし、知らない本もたくさんあって、渡辺さんはまだ旺盛に本を出しているのだなと思い、書店めぐ…

 橋本治「知性の顚覆」(1)

今年1月で70歳となって、だんだん根気がなくなってきたというか、同じ本を延々と論じていく気力が乏しくなり、感想を書きかけで中断してしまっているものが増えてきている。 ある本を読んでいると何か以前読んだ本とのかかわりがあるように思えてきて興味…

橋本治「その未来はどうなの?」(終)

第七章は「TPP後の未来はどうなの?」である。 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に参加した後の日本の未来はどうなるのか? そんなことは自分には分からないと橋本氏はいう。氏が指摘するのは、TPPもその一つの例であるように、さまざまな問題…

橋本治「その未来はどうなの?」(3)

「歴史の未来はどうなるの?」というちょっと変なタイトルの章で、橋本治氏はこんなことをいう。「今とは関係ない昔のことを頭に入れて、なんの役にたつんだ?」という意見がある。たしかにそうだ、と。その例として氏は、織田信長の名をだす。歴史の教科書…

橋本治「義経伝説」(「浄瑠璃を読もう」番外)

河出書房新社 1991年 この本は、だいぶ前に東京駅の「丸善」で見つけたのだったと思う。こういう珍しい本は見つけた時に手に入れてしまわないとすぐに姿を隠してしまうので、買った。買って安心して読まないままというのもいつものパターンで、本棚の奥…

橋本治「浄瑠璃を読もう」(終わり)

次は近松門左衛門の「国姓爺合戦」なのだが、橋本氏はあまり熱が入っていない。 近松門左衛門は人形浄瑠璃を代表する作家と一般に思われているのでとりあげたという感じで、氏にいわせれば、近松は人形浄瑠璃作家の中では「ちょっと変わった存在」なのである…

橋本治「その未来はどうなの?」(2)

今回はあらためて「まえがき」から。 橋本氏は、なんでここでに書いているようなことを考えているのかというと、それをしないと「自分の足下が崩れてしまう」からだという。「自分が明確だから、世の中のことなんかどうでもいい」と言える人は、自分を明確に…

橋本治「その未来はどうなの?」(1)

第2章「ドラマの未来はどうなの?」にとんでもないことが書いてある。 さて、ここでのドラマとは「指針のない世の中で、人が生きて行くための指針となった物語」を指すのだとされる。江戸時代は、「なにしてやがんだ手前ェは! このバカ野郎!」というよう…

橋本治「浄瑠璃を読もう」(5)

次は『ひらかな盛衰記』。 これは『源平盛衰記』の分かりやすい「ひらがな版」なのだそうである。であるが、『源平盛衰記』自体が学者しか読まない一般の読者にはなじみがないものとなってしまっているので、もっと説明が必要になって、橋本氏によれば『源平…

橋本治「浄瑠璃を読もう」(4)

つぎが『本朝廿四孝』である。わたくし本当にこれ題名しか知らなかったので、日本の親孝行列伝と思い込み、親孝行も孝行話も大嫌いなので、いやな話だろうなとだけ思ってきた。それが何と上杉謙信と武田信玄の話なのである。浄瑠璃の台本にはタイトルの上に…

橋本治「浄瑠璃を読もう」(3)

『人形浄瑠璃に「お姫様」が登場すると、彼女の仕事は「恋をすること」になってしまうのが通り相場』と橋本氏はいう。『ただもう一途に恋をする。はたの迷惑も考えず、「逢わせてたべ」と泣きすがる。「お姫様」ばかりでなく、「若い娘一般」がそうである』…

橋本治「浄瑠璃を読もう」(2)

ここでは、その時々に読んだ本の感想というか、後々の参照のための内容のまとめのようなものを書いているのだが、この二ヶ月ほどは、片山杜秀氏の「未完のファシズム」が面白かったので、それとのかかわりで読んだ本が多くなってきている。 なにしろ片山氏の…

橋本治「浄瑠璃を読もう」(1)

最初の「『仮名手本忠臣蔵』と参加への欲望」についてはすでに少し論じたので、次の「『義経千本桜』と歴史を我等に」。 ここで浄瑠璃の歴史というか由来が語られる。なんで『義経千本桜』のところでなのかというと、人形浄瑠璃にとって、源義経という人物は…

橋本治「二十世紀」

毎日新聞社 2001年1月 森山優「日本はなぜ開戦に踏み切ったか」を読んでいて、なぜだか橋本治氏の日本の政治権力論を思い出して読み返してみたが、それで21世紀初頭に書かれたこの橋本氏による20世紀論のことも思い出した。20世紀の通史をひとり…

橋本治「夏日」「冬暁」

中央公論社 1998年3月 「最後の「ああでもなく こうでもなく」」を読み、それで「貧乏は正しい!」なども読み返しているうちに、思い出して今から10年ほど前に刊行された橋本氏の小論集であるこの2冊を読み返してみた。本当は「春宵」「夏日」「秋夜…

橋本治「最後の「ああでもなく こうでもなく」 そして、時代は続いて行く−」

マドラ出版 2008年10月 橋本治が「ああでもなく こうでもなく」というとんでもない題名で「広告批評」に連載している時評をまとめた本はいままで5冊刊行されているが、6冊目となる本書は、その最新刊でありかつ最終巻となる。来年3月までで「広告批…

橋本治「小林秀雄の恵み」(9)山本七平「小林秀雄の生活」

「新潮」1983年4月臨時増刊「小林秀雄追悼記念号」を20年以上の年月を経て、とりだしてきたみた。まだその全部をみたわけではないが、一番面白かったのは山本七平の「小林秀雄の生活」であった。(あとはやはり福田恆存の「『本居宣長』を読む」であ…

橋本治「小林秀雄の恵み」(8)「近世」と「近代」

著書をみれば、宣長は激越な国学者とも見えるが、彼は浄土宗の寺に葬られている。世の中に対しては、宣長は仏教徒であったのである。世の中に対しては正業を介して接するのであるから、宣長は医者でもあった。 国学者として漢意を排した宣長は平気で漢文くず…

橋本治「小林秀雄の恵み」(7)「日本人の神」

小林秀雄は、宣長の「物のあはれ」を論じて次のようにいう。『(宣長の)説明は明瞭を欠いてゐるやうだが、彼の言はうとすることろを感得するのは、難しくはあるまい。明らかに、彼は、知ると感ずるとが同じであるやうな、全的な認識が説きたいのである。知…

橋本治「小林秀雄の恵み」(6)「徒然草」

この何回か、「小林秀雄の恵み」における橋本治の「無常といふ事」の読解を検討している。 橋本治は、「当麻」は、能の中将姫の踊りという「美」に襲撃されて敗北した小林秀雄を示すものであり、そのために「無常といふ事」では、かつて「一言芳談抄」できい…

橋本治「小林秀雄の恵み」(5)「当麻」「無常といふ事」「平家物語」

第二次世界大戦後の1946年に小林秀雄は、「当麻」「無常といふ事」「平家物語」「徒然草」「西行」「実朝」の6編を収める「無常といふ事」を刊行する。しかし、この6編はすべて戦争中、1942年から43年にかけて「文学界」に、この順で発表された…

橋本治「小林秀雄の恵み」(4)《美しい「花」がある。「花」の美しさといふ様なものはない。》

第5章「じいちゃんと私」にいたって、「小林秀雄の恵み」というタイトルに意味が明らかとなる。 橋本治は37歳のときにはじめて、小林秀雄の「本居宣長」を読む。それは「デヴィッド100コラム」という本で「『本居宣長』― 書評」というのを書くためであ…

橋本治「小林秀雄の恵み」(3)

小林秀雄は、本居宣長から遡って、近世における日本の学問の誕生を中江藤樹にみる。橋本治は、それはそれでいいとしても、それ以前の日本の「学問」は仏教からくるものしかないということ(小林秀雄はまったく指摘していない事実)を指摘する。それを中央公…

橋本治「小林秀雄の恵み」(2)

橋本治が「小林秀雄の恵み」の第一章から第二章にかけてでいうのは以下のようなことである。小林秀雄が「古事記」を読みたいを思って、それなら宣長の「古事記伝」かなと思い、読んでその感想を折口信夫にいったら、折口信夫は「本居さんは源氏ですよ」とい…