大岡信「うたげと弧心」

うたげと孤心 (岩波文庫)

うたげと孤心 (岩波文庫)

 「安東次男氏や大岡信氏がこの何年間かに書くやうになつたことによつて」と『覚書』の今月の分で吉田健一は言ふ、「詩の根本に属することの一つが歴史的に言つても恐らく世界で最初に明確に言葉で表されることになつた。」 また大袈裟な話をすると笑つてはいけない。吉田は最近の文芸批評の最も注目すべき動向を正確にとらへただけなのである。」というのは1974年6月の丸谷才一朝日新聞文芸時評で、ここではじめて大岡氏の「うたげと弧心」を知ったのだが、結局読まないままとなった。今回、岩波文庫に収められたので買ってきた。解説は三浦雅士氏。
 三浦氏はいう。「一九五〇年代から六〇年代にかけての特徴を一言でいえば、マルクス主義がまさに燃え尽きる寸前の恒星のように光り輝いていたということになるだろう。そしてその主題のひとつが集団と個人の問題であった。労働者と知識人の問題と言い換えてもいい。個人としてしかありえない知識人たちは、いかにして労働者階級という集団と同じ意識を持つことができるか腐心していたのである。」
 こういう見方があるのかと思った。わたくしは単純かつ常識的に、個人が孤独のなかで作品をつくっていくことの不幸をいい、それを克服していく試みのようなものが提示されている本なのだろうと思っていた。
 それにしても最後の光芒を放った後のマルクス主義というにはいったいどこにいってしまったのだろうか? 
覚書

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