大森望 豊崎由美「「村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!」

 

 
 著者の二人は「文学賞メッタ斬り!」というシリーズを共著として出しているかたで、わたくしの書棚のどこかにその何冊かがあるかもしれない。こういう本はその時読んで後で読み返すというはまずないものだと思う。
 村上春樹の「騎士団長殺し」は大変よく売れているらしいが、それにもかかわらずまともな書評がほとんど出ていないような気がする。本書をまともな書評といえるかは難しいところであろうが、本屋さんで立ち読みして、わたくしの感想と比較的近いような気がしたので、買ってきた。
 こういうタイトルであるが、「騎士団長殺し」以外にも、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」「「1Q84」book1・2」「「1Q84」book3 「女のいない男たhし」を「メッタ斬り!」したものも収載されている。
 共著者に共通している見解は、「騎士団長殺し」が「多崎つくる」よりずっと増し、「1Q84 Book3」よりも増しというあたりである。長編として「ねじまき鳥クロニクル」以来の成功作というあたりで両者の見解は一致するのだが、その割には読んでみると悪口が多い。
 豊崎氏が、個人的な春樹作品、ベスト3とワースト3というのを書いていて、ベスト3「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」「ねじまき鳥クロニクル」「神の子どもたちはみな踊る」、ワースト3が「国境の南、太陽の西」「スプートニクの恋人」「アフターダーク」と思っていたが、「多崎つくる」を読んだ後には「アフターダーク」といれかわって「多崎つくる」がワースト3入りと書いている。これもおおむね同感だし(「国境の南・・」は読んでいないというか、読みだして面白くなく途中までしか読んでいないが)、「職業としての小説家」で自分の主戦場を長編小説としているが、短編と中編に本来の氏の資質が出ているのではないかというのも同感である。
 村上氏はおそらく「羊をめぐる冒険」を書くあたりで意識的に長編小説作家として自己改造をしたのだろうと思うし、それへの自負も強いのであろうが、氏の著作があまりに売れすぎ、また氏の著作によって救われたりするひとがでてきたりしたことで、氏が自分の資質以上のものを引き受けすぎてしまっていることが、結果として最近の氏の書くもののパワーを落とすことに繋がってきているのではないだろうかと思う。
 氏の本来はマイナーポエットというと言いすぎかもしれないが、一部コアなファンがいてそこそこ売れるという立ち位置の作家なのでないだろうか? これだけ売れるということは、文学など普段読むこともほとんどないようあひとが、村上氏の本がでると、それだけは手にとっているためなのであろう。しかし、それは何かの間違いなのであるから、そういう読者にまで責任をとろうとする必要はないのではないだろうか?