ミラン・クンデラ

 チェコの小説家のクンデラが亡くなったらしい。今年7月のことらしいが、今日まで知らなかった。小説の「冗談」とか「存在の耐えられない軽さ」が有名だと思うが、読んでいない。(「存在・・」は読みだしたが中断のまま)
ということでわたくしにとっては専ら文学論・小説論のひととしてのクンデラである。
 わたくしが読んだのは「小説の精神」(叢書・ウニベルシタス 294 法政大学出版局 1990)であるが、岩波文庫から出ている「小説の技巧」も同じ内容の別訳ではないかと思う。)
 特にわたくしには、第一部「セルバンテスの不評を買った遺産」と「エルサレム講演」-小説とヨーロッパ」が面白かった。そこでクンデラが論じる「ヨーロッパ」についての見方である。要するにヨーロッパとは小説である、とクンデラはいう。
 
 「事実、私にとって、近代を確立した者はデカルトだけではなくセルバンテスでもあるのです。」
 「絶対的なひとつの真理のかわりに、たがいに相矛盾する多くの相対的真理」「小説の知恵(不確実性の知恵)」
 「ヨーロッパの生み出したもっとも美しい幻影のひとつである、個人のかけがえのない唯一性という、あの大いなる幻影
 「なぜ、かつてのドイツは、そして現在のロシアは世界を支配したいとおもうのでしょうか。・・力の攻撃性は、まったく利害を越えたものであり、動機づけのないものなのです。」
 「小説は全体主義的世界とは両立不可能なものです。」
 「遊びの呼びかけ」「夢の呼びかけ」「思考の呼びかけ」
 以上「セルバンテスの不評を買った遺産」

 「小説家とは公的人間の役を放棄するということです。」
 「アジェラスト―笑わぬ者、ユーモアのセンスのない者」
 「小説はユーモアの精神から生まれました。」
 「個人の尊重、個人の自由な思想と侵すことのできない私的生活の権利の尊重、このヨーロッパ精神の貴重な本質は、私には金庫ともいうべき小説の歴史の中に、小説の知恵のなかに預けられているように思われるからです。
(以上「エルサレム講演―小説とヨーロッパ」)