吉川洋「転換期の日本経済」
[岩波書店 1999年8月27日初版]
ケインズ学派(中谷巌氏のような現代日本における主流である新古典派に対する)により書かれた日本経済の分析の本である。
これを読むと経済学というのは、まだ何もわかっていないのだなあ、と思う。景気を左右するものが需要であるのか、供給であるのかという点についてさえ、経済学では意見が一致していないらしい、あることがおきたとき、二つのことに関連があったとしても、どちらが原因であるか意見がことなることもしばしばであるらしい。○○だから景気がよくなった←→景気がよくなったから○○となった。
日本の経済についての事実にかんする数値がたくさんかかげてあるので、それを見るだけでも、いろいろ考えさせられる。数字はたしかに事実その通りであったとしても、その数字をどうみるかについては、すぐに意見がわかれてしまうらしいのだが・・・。
日本は実は社会主義国なのであるというようなことがしばしばいわれる。共産圏の崩壊までは、<西>のなかでの大きな政府と小さな政府の対立は目立たなかったが、<東>の崩壊によって、それが表にでてきた。サッチャー・レーガン路線というのは明らかに、<西>も<東>化していたという反省のうえにでてきたものなのであろう。
日本は、小さな政府(国民負担率が低い)でありながら、<社会主義的>であるという奇跡的なことを実現してきた国であるのかもしれない。国の重みをあまり意識しないにもかかわらず、国になんでも期待する。それを可能にしてきたのが高度成長とバブルであった。バブルがはじけ、低成長あるいはマイナス成長の時代となり、<社会主義的>であることを放棄するか、大きな政府を甘受するのかという選択をせまられているのであろう。新古典派は<小さな政府>派であり、ケインズ派は<大きな政府>派とつながる。
純粋な学問的な議論として、新古典派とケインズ派の間の議論は可能なのだろうか? まず最初に価値観があり、その価値観が新古典派を選ばせたり、ケインズ派を選ばせたりするのだろうか?
わたくしは、どうも新古典派よりケインズ学派に親近感を感じるらしい。激烈な競争社会よりも、みんな仲良く適当にやっている社会が好きなようである。そうはいっても、竹内靖雄氏の本などとても面白く読めるのだが・・・。
(2006年3月19日ホームページhttp://members.jcom.home.ne.jp/j-miyaza/より移植)
(2006年3月19日付記)
- 作者: 吉川洋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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