島田雅彦「フランシスコ・X」 

  講談社 2002年4月26日初版


 フランシスコ・ザビエルを主人公とした小説?である。伝記ではなく、ノン・フィクションでもないが、小説であるというには何かためらいを感じさせるものがある。
小説であると呼ぶのをためらわせるのは、これがザビエルという個性を描こうという意思をまったくもっていないように思われるからである。
 この当時のポルトガルにおいても例外的な信仰者であったザビエルとイエズス会創始者であるイグナチオ・デ・ロヨラは少しも共感をよぶ人物ではない。われわれから見てまったく感情移入をできない人物である。むしろ、ザビエルが来た当時の日本においてもかれらがいかに奇妙に見えたかということが、ある意味では主題になっているのかもしれない。
 ザビエルが、当時の大航海時代の商人たちに翻弄され、戦国時代の日本の混乱の中で困惑し、多神教の日本に戸惑い、大した成果もあげることなく死んでいくまでが淡々と描かれていく。
 ある意味では犬死に近いような生涯をささえたパッションは、理解できないものとしてなげだされたままである。
 われわれにとっての宿亜のようなものである西洋との出会い、その最初の場面からのボタンの掛け違いを描くことが作者の意図だったのだろうか?


2006年7月29日 HPより移植