今日入手した本

吉田健一

吉田健一

 
 長谷川郁夫氏が断続的に「新潮」に連載していたものなので、半分位は「新潮」掲載時に読んでいるが、単行本になった機会に入手することにした。「新潮」の最終回が今年の9月号だから、連載終了2ヶ月くらいでの刊行である。本になるのは半年か一年先だろうと思っていたら、最新の「週刊新潮」にこの本の宣伝がでていてびっくりした。それでアマゾンで見てみたら、在庫なく次回入荷未定と書いてあった。9月30日刊行の本が在庫切れとなるというのもよくわからない。とても高価な本なので少部数しか刷らないのだろうか?
 分類すれば評伝ということになるのかと思うが、長谷川氏の感想も適宜まじえているので客観的学問的な伝記を目指したものではない。どちらかというと文学者としての吉田氏が形成されていくあたりに重点がおかれていて、氏がブレイクした「ヨオロツパの世紀末」や「瓦礫の中」から後には全体の五分の一程度が割かれているに過ぎない。
 長谷川氏は「定本 落日抄」「ラフォルグ抄」などの立派な造本による吉田氏の本を出した小澤書店の店主であった人(小澤書店はその後、倒産した)で根っからの吉田ファンらしい(わたくしは「ラフォルグ抄」限定1200部の290番を持っている。革装の大変豪華な本であるが、昭和50年に定価3900円である。こんな趣味的な売れそうもない本をだして経営がなりたつのだろうかと思っていたところが、やはり続かなかったらしい)。
 わたくしは吉田健一については原書房版の全集に一番お世話になったが、これは垂水書房というところからでていた「吉田健一著作集」が垂水書房が倒産して中絶したことから、その紙型を引き継いで作られたものらしい。この垂水書房の主である天野亮というひとも吉田健一に入れ込んで小出版社としてはかなりの無理をして結局続かなくなったらしい。学生のころ、神田の古書店に大量の垂水書房版「吉田健一著作集」のゾッキ本が並べられていたのを覚えているが、一向に売れているようには見えなかった。この原書房版の全集は全巻の解説を篠田一士氏が書いていて、吉田健一を読み出した当初は篠田氏の見解に随分と影響されて読んでいたものである。長谷川氏もどちらかといえば篠田氏の路線のひとのように感じる。
 吉田ファンには正統派と異端派?がいて、篠田氏や丸谷才一氏は正統派(吉田健一こそ文学の嫡流の人である!路線)であり長谷川氏もそれに与するのではないかと思うが、一方では吉田健一ってそんなに安心立命のひとではないし不気味なことろもあるひとだよというような方向の丹生谷貴志氏や松浦寿輝氏のような一派もいて、最近ではどうもそちらのほうにわたくしは親近感を覚える。
 「新潮」連載時に読んではじめて知ってびっくりしたのだが、吉田茂は死後洗礼をうけてカトリックで葬儀をしたのだそうである。茂夫人の雪子氏は滞欧中にカトリック信者になり、その影響で健一以外の子供は皆受洗していたのだという。茂氏本人はその意思がないのに子供たちの多数決?でそうしてしまったらしい。わたくしは吉田健一の思想は一言でいえば反=カトリックということかと思っているので、これはとても興味深いことのように思う。