A・メスーディ「文化進化論」

文化進化論:ダーウィン進化論は文化を説明できるか

文化進化論:ダーウィン進化論は文化を説明できるか

 たまたま書店で目にした本。文化といったことをダーウイン進化論の方面から考察するといったものらしい。著者の考えを述べるというより、いろいろな研究者の論を幅広く紹介するという方向のもののようである。
 生物学が進化論なしには成り立たないことは自明である。人間が生物でないという立場をとるのであれば別であるが、人間が生き物であることを認めるならば、生物学に照らして、たとえばラディカル・フェミニズムのような主張が成り立たなくなることはほぼ自明である。心理学や経済学にも進化論的視点が導入されてきていることも周知のことである。
 にもかかわらず、いわゆる人文系の本を読んでいると、少しでも生物学の新しい知見を知っていたらこういうことはいわないよなというような論をしばしば見る。文科と理科の壁はもっぱら理科の側から破壊しにかかっているのであるが、そういうことを文科の側のひとはほとんど知らずにのほほんとしているように感じることも多い。スノーの「二つの文化と科学革命」が書かれてからもう半世紀以上がたっているのにである。
 生命の誕生は必然のものではないから、物理学や化学から文化の問題を論じることはできないだろう。しかし、生物学はとにかくも生命というものが生まれてしまったということを前提にした学問であるから、その知見を人間という生物の活動の所産である文化を研究する者が無視できるはずもない。
 20世紀は科学の世紀であったのかもしれないが、21世紀はひょっとするとオカルトの時代にならないともいえないような気がする。こういう本はやはり必要なのではないかと思う。