アーサー&エレーヌ・シャピロ 「パワフル・プラセボ 古代の祈祷師から現代の医師まで」

   共同医書出版社 2003年5月15日初版
 

プラセボにつき広く論じたものである。
 オスラー卿によれば、人間とは薬を欲しがる動物なのだそうである。
 医学の歴史の大部分の時期において、われわれはプラセボ以外の薬をもたなかった。17世紀にヨーロッパにキナ樹皮(キニーネ)が紹介されたことは画期的であった。なぜなら、これはマラリアのみに効き、他の発熱疾患には効かなかったからである。これは過去においてプラセボ以外の薬が存在した数少ない証拠の一つである。
  プラセボが医学の分野で広く論じられるようになったのは、二重盲検査法などの臨床比較試験によるところが大きい。そこで、心理療法の効果はプラセボ効果なのではないかということが問題となる。
 過去において医者がおこなってきた多くのことはあとになってかえって有害であったとされたものが多いので、民間療法などのほうがよほど有効性が高かった可能性はある。
 さまざまな報告において、プラスボは21〜58%、平均35%の効果が得られている。ある研究者によれば、プラセボの鎮痛効果は市販の鎮痛薬に匹敵する。
 プラセボうつ病の治療において抗うつ剤の約半分の効果をもつ。
 心理療法プラセボ以上の効果をもつのかどうか今のところはっきりとした証拠はない。
 プラセボが効果を発揮するはっきりとした機序はわかっていない。プラセボが効きやすい性格といったものも明らかではない。不安が強いほどプラセボは効きやすいとされている。医師を好意的にみている患者ほどプラセボは効きやすい。しかし、患者側の医師の評価と医師同僚間での医師の評価は一致しない。

 ときどき偽医者、免許をもたない医者が摘発されることがある。あとから、そういえば、あの人の診療は変だったなどということになるが、もしぼくが偽医者としてつかまったら何をいわれるかわからないわけで、概して偽医者は評判がいいようである。偽医者がプラセボのみを使って治療すれば、すくなくとも害をなすことはないわけで、あとは困った患者のみを手早く他に送れば、かなりの名医といわれるはずである。
 ここでも論じられているように、心理療法精神分析療法にはそれの対照になるプラセボが存在しない。プラセボが平均30%の効果があるとすれば、心理療法プラセボ効果のみである可能性は十分にある。ある心理療法家が独自の心理療法理論を考案し、患者にためしてみたところ、30%に効果があったとすれば、自分の理論には十分見込みがあると思うのではないだろうか
 バリントという精神科医が、医者が通常の臨床で使っている最大の薬は医者自身であるというようなことをいっている。声や容姿、接し方といったものすべてがその効果に関係するという。医者という薬は非常に効果がある薬であると同時に大変な副作用ももつ薬なのであるという。
 われわれとしては少なくとも副作用のない医者であることをめざし、できれば薬理効果のある医者になることをめざすべきなのであろうか? しかしもし自分に大きな薬理効果があることになれば、祈祷師かまじない師になったような変な気分になるではないかと思う。
 もしも医者自身が大きな薬理効果があるのであれば、医学部においてその効果的な使い方を教育すべきなのだろうか?
 プラセボ効果というのは医療におけるきわめて悩ましい問題である。