A・ブルックナー「秋のホテル」 

  晶文社 1988年10月
  
 小野寺健氏の推奨で読んだ本(訳も小野寺氏)。あまり面白くなかった。最近、意識的にイギリスの小説を読んでいるのだが、どうも自分はイギリスの小説と波長が合わないのだろうかという気がしはじめた。これまた小野寺氏の推奨で読んだドラブル「碾臼」にも同様の感想をもった。何か薄いのである。とにかく魅力的な人物がでてこない小説というのは困る。不幸な人間ばかりでてくる小説というのは読者に礼を欠くのではないだろうか? こういう小説がブッカー賞を受賞し、ベストセラーになるというのだから、やはりイギリスというのはよくわからない国である。
 この小説はイギリス風というよりもフランス風といいたいような心理小説なのだが、こういう方面の追求というのは小林秀雄ではないが、らっきょうの皮剥きであって、誰も幸せにしないだろうと思う。この方面では《もうすべての書は書かれてしまった!》のである。それが20世紀後半によく読まれるということは、イギリス人の感情教育が随分と遅れていたということなのであろうか? 日本では紫式部がすでに発見していたものなのに(などと書いているが、例によって「源氏物語」は読んでいないのだが)。
 でも、ウォーもフォースターもロレンスもオースティンも面白い。単なる才能の差なのかもしれない。しかし、それよりもむしろ生命力の差、という気がする。ブルックナーという女性、どこか生きる力が足りない人なのではないかだろうか?
 とにかく、ここに出てくる男には、まったく魅力がない。それにくらべればまだ女性のほうは増しであるが、なにか不幸の深さが足りない。不幸な主人公であっても、その不幸がいくところまでいけばいけば何か別種の魅力がでてくるはずであるが、不幸でさえ中途半端なのである。中途半端な人間が中途半端に悩んだり迷ったりする小説を読まされる読者はつらい。
  

秋のホテル (ブルックナー・コレクション)

秋のホテル (ブルックナー・コレクション)