John D. Fitzgerald 「 The Great Brain 」

 [ Yearling 1967 ]


 これも、「Big Fat Cat」 の推薦図書の一冊。「自分のことを"Great Brain"と公言する自信家で金に抜け目のな小学生トムがいろいろ考えだす商売のアイデイアが面白い」話ということであるが、なかなかけどうして決してそれだけのものではない。
 モルモン教徒の多いユタ州を舞台に、アメリカという多民族、多宗教国家の問題(それによる差別や偏見の問題)が、ギリシャからの移民の少年やユダヤ教徒の老人などをめぐる話の中できっちりと描かれている。
 American kid であるということはどういうことであるか、アメリカ人になるということはどういうことであるか、人間としてプライドをもつというのはどういうことであるのか、という問題がきれいごとでなく示されている。
 これは子供むけの(少なくとも日本の子供むけの本ではそうであるような)みんな仲良くという物語ではない。だめな子供は落後してもしかたがない世界なのである。Spirits をもたない子供は置いていかれる。
 主人公のトムも、知恵が働くだけではなく腕力も強い。最近では日本でも自立と自助などということが強調されるが、こういう本を読むと、子供の成長のときからこういう物語が当たり前の国であるとでは、言葉の背景が全然ちがっているという気がする。
 読み終わってから気がついたのだが、これは子供たちの物語なのに女の子が全然でてこない。話者は男だけの3人兄弟の一番で自分のことを"little brain"と呼び、それがすぐ上の"Great Brain"の兄の物語を語るのだが、彼らは男の子たちだけと遊んでいる。女の子は一体どこにいるのだろう。

(2006年3月25日ホームページhttp://members.jcom.home.ne.jp/j-miyaza/より移植)