下條信輔 「視覚の冒険 イリュージョンから認知科学へ」

   [産業図書 1995年4月13日初版]

 新宿の三越の上にジュンク堂書店ができたのでいってみたら、その一角に養老孟司書店というのができていて、この本がおいてあった。最近認知科学にいささか興味をもったので買ってきた。大変面白かった。今から10年近く前に刊行された本であるからここに書かれていることは随分と古い知見なのであろうが、恥ずかしながら、この分野のことはまったく知らなかったので、実に新鮮だった。
 それで何が書いてある本であるかといえば、ランダムドット・ステレオグラムを通して視覚について論じたものである、などと書いてもさっぱりわからないであろう。われわれは通常、ひとつのものを二つの目でみて、そこから立体感や奥行きといったものを知ると思っているけれども、微妙に差のある二枚の像を左右別々の目でみるような仕掛けをつくると平面をみていながら、そこから立体感覚を得ることができる、そういう像がランダムドット・ステレオグラムである。本書にもそういうものが例示されていて、少し慣れるとわたくしにも実に美しい立体像を見ることができた。これは実体験してもらうしかない経験であるけれども、本に印刷されたどうということのない写真から実にリアルあるいは実際以上にリアル?な美しい三次元の絵が立ち現れてくる。
 そこからものを見るというのはどういうことをしていることなのか? 立体視というのはどういうことなのか? という議論が展開されてゆく。その議論にはわたくしにはよく理解できないところがあり、また現在では修正されているところ、否定されているところもあるであろうと思われるが、見るということがいかに複雑な現象であり、それをやすやすとおこなっている脳というのがいかにとんでもない臓器なのであるかということだけは、実に身にしみてわかった。
 脳というのは本当に面白い。


(2006年4月23日ホームページhttp://members.jcom.home.ne.jp/j-miyaza/より移植)

視覚の冒険―イリュージョンから認知科学へ

視覚の冒険―イリュージョンから認知科学へ