J・M・ロバーツ 「世界の歴史」 1〜7巻

  創元社 2002年12月〜2003年7月初版


 最近、歴史の知識の不足を痛感することが多く、この図版の多い本を読んでみた。正式には図説「世界の歴史」である。そのきれいな図版をみているだけでも楽しい。
 全10巻からなる世界の歴史の通史である。8〜10巻は現代史であるから、7巻までをとりあえず一括してとりあげる。
 一日一巻というペースで読んだので、あっというまに記憶から消えてしまう部分がほとんどであるけれど、それでもいくつかはっと思って記憶に残る部分がある。たとえば、イエスは自分をユダヤ教徒と思っていて、新しい宗教をひらいたというようなことはまったく思っていなかっただろうとか、マルクス主義は宗教であったとか。こういうこ部分を読んで、キリスト教徒はあるいはマルクス主義者はどう思うだろう。
 それから、プロテスタント国での資本主義の隆盛を論じて、かつてそれがマックス・ヴェーバーによって、プロテスタントの信仰が資本主義をもたらしたとされたが、今ではそれはほとんど支持されていないなどと書き、原因はそれらの国が大西洋に面していたからであろう、などと実もふたもないことを書く。日本ではヴェーバーの信者が多い。だからその説が世界中で支持されているように思う。世界の目でみると、ヴェーバーはあまり支持されていないらしいことを知ることができるのも、こういう本を読む収穫のひとつである。
 それにしても、一人の人間が世界の通史を書くというのは、現代においてはまことに無謀な試みでああろう。著者もいうように、これはイギリスの中産階級に属する白人男性が書いた歴史書である。イギリスの植民地支配の歴史などについて、公平に書くことを目指しながら、どこかイギリスの行動に弁解的なのはご愛嬌かもしれない。
 ヨーロッパ人の見た世界史であるから、当然ヨーロッパ中心の世界史である。第4巻の日本語監修者が書いているように、当然著者が参観しているのは欧米の研究者の成果であって、非ヨーロッパ言語でかかれた研究は参照されていない。ユーラシア草原の騎馬民族の研究に関しては日本が最先端であるのにそれがまったく反映されていないと、第4巻の監修者は大いに不満なようである(自分が書けばもっといいものが書けるのに)。しかし分担執筆ではなく、一人の人間が書いているというところがこの通史の目玉である。
 われわれもまた、プラトンデカルトやベートーベンやダ・ヴィンチのほうが日本の思想家・画家たちよりも近しいのである。これは根本的にわれわれ(わたくし?)が間違った生き方をしているということかもしれないけれども、どうもそれはもうとりかえしがつかないことであるような気がする。
 近代の世界のヨーロッパ化ということが著者の基本的な視点であり、それにむかって世界がどのように動いてきたかという点から本書は書かれている。このような史観をイスラムのひとはまったく認めないであろう思うけれども、われわれ(わたくし?)にとっては身近に感じられる視点である。
 逆にそういう視点からは脱落しやすい中東アジアの歴史にも十分な目配りがされているので、そのあたりの知識をほとんど欠いているわたくにとっては、本書は格好の教科書である。
 古代から江戸時代までの日本の歴史が20ページほど!で書かれているが、読んでほとんど違和感を感じない適切な要約となっている。たいしたものだと思う。
 これからも何回か読み直すことになると思う。


(2006年5月7日ホームページhttp://members.jcom.home.ne.jp/j-miyaza/より移植)

図説 世界の歴史〈1〉「歴史の始まり」と古代文明

図説 世界の歴史〈1〉「歴史の始まり」と古代文明