
- 作者: ダニエル・C・デネット,阿部文彦
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2010/08/25
- メディア: 単行本
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ドーキンスとかデネットがエネルギーをさいてこういう本を書くというのはなんとも不幸なことだと思う。
最初のほうでデネットは、この本がアメリカの読者のために書かれたものがということをはっきりと書いている。アメリカ人以外の読者には本書から、アメリカが置かれている状況を学んでほしいという。宗教に対する態度という点で、世界の主要な国々とは著しく異なっている国であるアメリカについて。
しかし、ドーキンスやデネットがいくらもてる知識をすべて動員してこういう本を書いても、宗教側のひとがそれを読んで態度を変えるとは思えない。だから壮大な精力の浪費であると思う。
ドーキンスとかデネットのこういう方向の本を読んで感じるのは、彼らが西欧キリスト教社会が長い歴史の中で培ってきた道徳律とか倫理観というものを根本的なところでは否定できないように見えるということである。それを肯定して宗教を否定するというのは非常につらい試みであって、勝ち目のない闘いなのではないかという気がする。
キリスト教の最大の問題は人間と人間以外の動物の間に太い線を引くということであって、人間以外の動物は倫理も道徳も持たないのである。倫理とか道徳といったものを進化の観点から説明することはまったく不可能な試みではないであろうが、その説明が万人を説得するものになるとことは想像できない。
ドーキンスやデネットの方向にいくならば、人間と人間以外の動物を分け隔てしないままで論を構築しなくてはならないはずである。しかし、その論がキリスト教文明の中で生育したひとを説得するということがあるのだろうか?