(16)2011・4・13「平和」

 
 診察室の窓の外に桜の木があって、毎年いまごろになると、なかなか見事に咲いて、それがひとしきり患者さんとの話題になる。しかし今年は桜のことが話にでたのはまだ一度だけなのに、もう、少し葉桜になりかけている。一見、変わらないようであっても、われわれのこころはどこか普段通りではなくなっているのかもしれない。
 「平和とは何か。それは自分の村から隣の村に行く道の脇に大木が生えゐて、それを通りすがりに眺めるのを邪魔するものがないことである。或は、去年に比べて今年の柿の方が出来がいいのが話題になることである。」 そう吉田健一は言っていた。