R・ミュラー「恐竜はネメシスを見たか」
集英社1987年
ムラーの「サイエンス入門」の最初に、小惑星が地球に衝突して恐竜が絶滅したという、リチャード・ムラー「Nemesis」からの引用がある。邦訳名「恐竜はネメシスを見たか」とあって、あ、読んだことがあるなと思いだした。それで本棚から引っ張りだしてきた。「恐竜はネメシスを見たか」の著者はリチャード・ミュラーとなっているが、Richard A. Muller であり「サイエンス入門」の著者と同一人物と思われる。
この「恐竜はネメシスを見たか」は、著者の指導教官であるノーベル物理学賞受賞者ルイス・アルヴァレズらが提唱した《恐竜の絶滅は小惑星か彗星の地球への衝突による》という説(ノーベル賞は別の業績に対して)と、そのような大量絶滅が2600万年毎におきるというロープとセプコスキというひとの主張に対して、その説明として著者らが主張するそのような周期性は太陽が未知の伴星を持ち、その伴星の周期が惑星や彗星を攪乱するためであるという説の二つをあつかっている。
著者やその指導教官であるルイス・アルヴァレスたちがどのような経緯で、どのような議論を経て、そのような説を形成していったかというドキュメントでもあり、科学とくに物理学の最先端の学者たちがどのように研究活動をしているのかの報告として、大変面白い読み物である。
25年くらい前のわたしが40歳ごろ読んだ本であり、再読するまですっかりその内容は忘れていた。この本の前半である隕石の衝突が恐竜を絶滅させたということについては、ほぼ現在では定説として受け入れられているようであるが、後半のネメシス説のほうはいまだに仮設に止まっているようであり、ムラーがネメシスと名付けた未知の太陽の伴星も発見されていない。2600万年周期説のほうもどの程度うけいれられているのかもよくわからない。
恐竜の天下が続けば、哺乳類は細々と生き延びるしかなかったわけで、当然現在のような人間の地球支配もなかったわけである。その説明として太陽の未知の伴星という説明をもってくるというのは何とも気宇壮大な話である。このような地球外からの何事かによって決定的な影響をうけるのであれば、進化論というのもその基盤は随分と脆弱なものである。
彗星の衝突ほどではないにしても、東日本大震災は日本のさまざまな動向に決定的な影響をあたえたと思うが、昨年に《日本の2011年を占う》というようなことを論じたひとの中で、未曽有の震災くることをがいっていたひとなどは誰もいないはずである。
どういうわけか手塚治虫の翻訳ということになっている。現在は絶版のようである。
- 作者: リチャードミュラー,手塚治虫
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