新潮社版「小林秀雄全集」

 
 昭和42年(1967年)ごろ刊行の全12巻で刊行された全集。編輯 大岡昇平 中村光夫 江藤淳
 全集ではあるが、今みてみたら1・2・3・4・8・9・11巻だけしか持っていなかった。なんでこんな巻だけ買うことになったのか覚えていない。第一巻の定価が1300円となっている。今から45年前であるから、物価が少なくとも5倍として今なら6000円くらい? 当時親がかりの学生の身では小遣い銭が続かなくなったので全部は揃えなれなかったのだろう。
 背表紙が革でその上に紙のカバーがあり、さらにそれにビニールのカバーがあって、ボール紙製の箱にはいっているという今では考えられないようなつくりの本である。緑色の革の背表紙には金箔で小林秀雄全集 第一巻 新潮社版と押してある。紙のカバーには各巻ごとにちがう写真があって、第一巻「様々なる意匠」では、和服でどこかの縁側に腰掛けている若き日の小林秀雄の姿である。本体の最初にも同じ写真があり昭和11年4月とある。
 こういうのをみると、すでにこの当時において小林秀雄は神格化されていたのだなあと思う。それと同時に実は大学入試問題としても実によくでたように記憶している。あの飛躍の多い論理展開のみえない文を試験問題にするのだからひどい話である。知識人の日本語を変にした張本人の一人であろう。
 いまのわたくしには小林秀雄は、時代劇にでてくる剣戟の名人である。はっと睨みあって「うん、お主、出来るな!」というあれである。作品ではなく、作家と睨みあってどちらが勝つか? だから相手は文学作品である必要ななくて、音楽家、絵描きなんでもよく、骨董品でもいいわけである。
 最近、小林秀雄のことを少し考えていてこの全集を思い出した。読んだ形跡はあまりないが、それでも少しは読んでいるようである。