今日入手した本 岡田英弘「日本史の誕生」

日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)

日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)

 
 岡田氏の本は結構持っているので、あるいはこの本も本棚の奥にあるかもしれないが、今読んでいる池田信夫氏と与那覇潤氏の「「日本史」の終わり」との関わりで買ってみることにした。日本史の「誕生」と「終わり」というしゃれではないので、この岡田氏の本は、中国との関係で日本を見るという視点でつらぬかれている点で、池田&与那覇氏の論点と深くかかわるものなのである。以前にも書いたが、なぜ岡田氏の諸著作がこの対談本でも言及されることがないのかが不思議である。
 岡田氏は、日本という国は660年に建国されたもので、その国家の正当化のために書かれた「日本書紀」は、中国の「史記」に習ったもので、「史記」が中国は黄帝以来、中国人の天下であり、常に正統の帝王によって統治されてきたとしているのと同様に、日本国という統一国家には古い伝統があり、紀元前7世紀という早い時代に、中国とも韓半島とも関係なしに、全く独自に日本列島を領土として成立し、それ以後、常に万世一系の日本天皇によって統治されてきたのだという立場をとっている、としている。この「日本書紀」の記述が事実に反しているということについては現代の歴史家は一致するが、それでもこの「日本書紀」が提示した基本的な枠組みから多くの歴史家や多くの日本人が逃れられていないという。
 その岡田氏にして「日本人は純粋な大和民族であって、古来、外国からの影響にあまり侵されていない。だから、優秀であり、今日、世界の指導的な地位を占められるのだ、という気持ちは、われわれみんなの心の奥底にある本音だと思う」と書く。なぜ、そうなるのか、それは日本が7世紀に初めて建国した前後の事情が、日本という国家の性格を決定してしまって、それが後々まで尾を引いているからなのだという。これが千三百年後の今日まで影響していて、それはそう簡単に払拭できるものではなく、実際それはほとんど不可能だが、少なくとも、それがどういうものであるのかを認識しておく必要がある、と岡田氏はする。
 実際、本書があつかっているのは書名通りに「日本史の誕生」の時期のみなのだが、それがずっとわれわれの自己認識に深い影響をあたえているとするのであるから、池田・与那覇両氏が論じる「「日本史」の終わり」についても深くかかわるはずの本なのである。