ベンジャミン・フルフォード「日本がアルゼンチン・タンゴを踊る日 最後の社会主義国家はいつ崩壊するのか?」

   光文社ペーパーバックス 2002年12月10日初版

 著者は「フォーブス」というアメリカの経済誌の日本支局長。「フォーブス」という海外誌には掲載されても日本語とはなっていない記事の収載もふくめて、日本を論じたもの。その中には日本ではほとんどメディアが報道しないものもあるというのが主眼となっている。
 なぜ、不良債権の処理ができないのか? それは不良債権の多くにヤクザがからんでいるからである。どこの国でも闇社会と支配層の癒着はある。しかし、先進国の中で日本ほどそれが深い国はない。
 ブッシュ大統領の初来日にあわせて米国務省が作成したレポートにはそのことがはっきりと指摘されている。しかし日本では新聞ではこのレポートはまったく報道されず、わずかに週刊誌が一部を報道しただけであった。ここには山口組、稲川会、住吉連合といったものと政界トップとのかかわりが詳細に示されている。不良債権−裏社会−北朝鮮悪の枢軸−政治家というかかわりが示され、北朝鮮とのかかわりがある政治家は排除されていかざるをえないことが示されている。事実、加藤紘一は失脚し、野中広務はかっての権力を失っている。
 その背景には日本の不良債権を買いまくったアメリカの金融機関がヤクザの存在のためにその処分ができず困りはてているということがある。
 1995年の住専の破綻処理問題で、それが明らかになった。住専から借りたカネは「地上げ」「土地ころがし」に加担したヤクザのもとへ流れていたのである。そしてそれが政治家・官僚・銀行家に還流していた。著者は「The Nikkei Weekly」に1995年にそのことを書いている。しかしそれはを記事にすることに日経に圧力がかかり、著者は日経新聞を辞めている。
 不良債権を処理しようとしたら、政治家−ヤクザの関係が表にでてしまうのである。それが日本で不良債権処理ができない理由である。不良債権問題はヤクザ問題であるのだ。
 公共事業のほとんどにヤクザがからんでいる。公共事業費の2〜5%がヤクザに流れているといわれる。
 日本の建築業界が○○組などというのは、その内容を表しているのであり、戦後の混乱期には建築現場では組同士の争いが頻発していた。談合はそれを避けるために生まれた。
  公共事業費を安くするもっともよい方法は海外に門戸をひらくことである。

 これらのことは日本のメディアは知っていても書かない。日本の新聞社はマラソンなどのイベントを主宰する。しかし世界中でこんなことに新聞社がかかわるのは日本だけである。マラソンには警察の協力が不可欠で、こういうことをやっていると警察に頭が上がらなくなってしまう。そして警察がヤクザともちつもたれつの関係にあることは公然の秘密である。
 記者クラブの存在、新聞社本社が建つ土地の公からの破格に安い価格での払い下げ、銀行からの援助でかろうじて存在できている経済状態などからいって、今の新聞には日本の政治、銀行などを本当に批判できるはずはないのである。
 
 第二次世界大戦終了時、アルゼンチンは世界で有数の豊かな国であった。しかし、その後半世紀で駄目になってしまった。それが駄目になってしまったのは愛国的な自国主義による。それと政界の腐敗である。
 今日本にも変な愛国主義がでてきている。海外の資本が日本に進出することへの極端な警戒感である。明治維新の日本人はもっと柔軟だった。
 韓国は1997年の通過危機で金融システムが壊滅状態になったが、2001年には驚異的な回復をみせている。それは日本の真似をやめたからである。
 日本はものごとを決めるのに時間がかかりすぎる。根回しなどによる全員一致にこだわりすぎる。もう<みんなで話し合おう>は通用しない。それにこだわる日本の老人たちは最大の不良債権である。
 ゴーン社長と新生銀行の八城社長があげるそれ以前の会社の駄目だったところ。
1)知名度が高く、社員はエリート意識をもっているが、責任の所在が曖昧で、決断が遅い。
2)人間関係を重視して、経済効率をないがしろにする。
3)仕事の中味は、役所の動向、他者の動向を探ることばかり。
4)いらないとわかっていることであっても、しがらみでやめられない。
 でも、これはほとんどの日本企業にいえることではないか?

 日本人は本当は鎖国が好きなのではないか? 自分たちだけでやっていきたいと思っているのではないか? 日本人は北朝鮮からの難民を引き受ける気があるか?
 日本はこれからの少子化の進行で、移民を受け入れるしかないはずなのだが?

 そのような日本は(日本がそう自分で思っているのとは裏腹に)他国からは民主主義国とは思われていないのである。北朝鮮政権がもし崩壊し、そこで過去の日本の政権とのつながりを示す資料が次々と公開されたら、自民党はもたないであろう。
 日本の現状は崩壊前のソ連と酷似している。小泉はゴルバチョフなのだろうか? ゴルバチョフソ連国民に一時改革の夢を与えたが、「社会主義の枠」のなかで改革しようとした。小泉は自民党の枠の中で改革しようとしている。あるいはポーランドワレサだろうか? たしかにゴルバチョフワレサも失脚した。しかし、それでも「共産主義」の昔にもどろうという動きはでない。小泉はいずれ失脚するかもしれないが、それでも守旧派が再登場することは、最早ないだろう。
 最近、外国人記者の間でこんな賭けがおこなわれているのだという。「日本と北朝鮮とどちらがさきに潰れるか?」 北朝鮮に賭けるひとが多いそうだが、生き残ったほうが、地球上で最後の社会主義国家になるのだそうである。

 以上、不良債権をヤクザの存在から見るという点はわたくしが考えてもみなかった視点であったが、あとはそれなりにあちこちで言われていることであるかもしれない。
 著者の主張にもかかわらず、日本人は「和」をたもったままみんなで沈没していく選択をするように思えてならない。そして大部分の人間が窮乏していくなかで一部の人間だけがグローバルに日本にこだわらず活躍していくのではないだろうか? 多くのひとはまわりも貧しくなったことで自分の貧しさも受け入れ、一部の豊かな人間についてはあいつは特別だからと仲間には数えず、あんなに忙しくしてまで豊かになりたいかねえ、などと悪口をいいながら、お互いになぐさめあってゆく、そういうことになっていくのではないだろうか?