矢吹晋「文化大革命」

文化大革命 (講談社現代新書)

文化大革命 (講談社現代新書)

 
 今、トウ小平について読んでいる関係で購入してみた。
 面白いのはこの本が1989年に書かれていることで、文化大革命終息からまだ10年ちょっとであり、この年の5月、ソ連ゴルバチョフ書記長が訪中などという記載が見られることである。ソ連という国が生きていて、著者は89年11月のベルリンの壁崩壊もしらず(発刊が89年10月)、まして2年後のソヴィエトの崩壊もまったく予期していない。
 ということはまだマルクス主義が現役の思想であって、それが過去の思想とはなっていないということで、計画経済とか修正主義とかがまだ完全に意味を失っていない言葉として書かれている。著者は、現代は「社会主義が全面的に崩壊に向かい、資本主義が全世界的勝利に向かう時代」としながらも、社会主義国家は共産主義主義的国家への過渡的な体制であるはずであるのに、それへの展望が示せていないことが現在の社会主義国家の根源的な問題というようなことを書いている。毛沢東は全世界の共産党がこの展望を提示しえていないなかで純粋な共産主義者として、あえてそれを追求したのが文化大革命であったというようなことを書いている。その結果は大失敗ではあったが、旧世界の秩序は破壊した、ただ新世界の樹立には失敗したのだ、と。
 わたくしが入手した本が21刷りであるのだから結構売れている本なのだが、増補とか改定がされていないのは、その後の世界の変化が、そういうことでは対応できないほど変貌してしまったということなのであろう。
 毛沢東は死ぬまで、第三次世界大戦不可避論者であったのだという。革命により帝国主義が打倒されないかぎり、戦争はなくならないと信じていたのだという。