内田樹「映画の構造分析 ハリウッド映画で学べる現代思想」

   2003年6月15日初版


 内田さんは休筆宣言をしたわりにはよく本ををだす。
 それで、いつかどこかで聞いたはなしばかりといえば確かにその通りであるが、今回は映画を通した現代思想解読という趣向。現在思想といっても、バルトのテキスト論とラカンによる抑圧論、それにちょっとフーコーの権力論をまぶしたといったところ。
 バルトのテキスト論は非常に腑に落ちるのであるが、ラカンフロイトはどうも。フロイトの説は内田氏もいうところの「物語」であるから、科学という篩にかけるとあやしいところだらけである(科学も一つの物語であるにしても、検証という過程をふくむ物語である)。にもかかわらず、フロイトラカン説を自明の前提として話が進むのでいささか白ける。
 内田さんもそろそろ種が尽きてきたかなと思う。繰り返しもまた芸の内であるが、何か少し緊張が足りなくなってきているのではないだろうか?